(79) ゾォ~っとする
とにかく冷えたい…と今里は思った。今年はすでに六月から暑いのである。それも、猛暑日すら出る地方があった。これでは、とても今年の夏は越せそうにないぞ…と、今里は漠然と思った。
今里は氷柱男で、冬場の寒さには滅法、強いのだが、反比例して夏の暑さには、めっきり弱く、解けて痩せ衰える体質だった。その夏日が梅雨も明けないというのに、すでに今里を攻撃し始めていた。日中、30℃を超えた昼下がり、今里はパタパタと怨めしげに団扇を煽りながら、部屋の窓から空を眺めてゾォ~っとした。彼は、今すぐにでもマイナス数十度以下の冷凍庫に入って凍りつきたい心境だった。今里の額から、氷が解けるように汗がポタポタと滴り落ちた。今里は腰に下げたタオルで汗を拭った。
「上空の気流の蛇行が変化しており、そこへ南からの暖かい…」
納得が行く理由はあるもので、テレビに流れる気象庁の天気分析では、どうも異常な天気状況が原因のようだった。そんなことは、どうでもいいんだ…と、今里は思った。この現状をなんとかしてくれればよかったのである。こうも暑くては、今日、支給される年金を引きおろしにも行けやしない…と切実に思えた。熱中症にでもなって倒れれば大ごとだ。水筒持参だな…と、今里は水筒を収納棚から出して氷水を入れて出た。玄関を施錠して道路を歩き始めたとき、袋に入れたはずの肝心の通帳が見当たらず、今里はゾォ~っとした。幸い、袋へ入れ忘れたことに気づき、慌てて家内へ戻ってホッとした。ふたたび、袋を持って出かけた。汗は流れるが、これはまあタオルで拭けば済むことである。もう、ゾォ~っとすることもなかろう…と、郵便局へ入って、通帳を自動現金支払機に入れた。お金を袋へ入れ、通帳を見たとき、今里はふたたびゾォ~っとした。支給額が減らされていた。
完




