表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/100

(70) 揉[も]みほぐす

 上手うまい具合に柔らかくコトを納めるのが人間社会だ。牧園は、つくづくそう思った。というのは、こじれた契約先をなだめ、無事に契約を獲得できたからだ。コトが激突してこじれ、契約先を怒らせたのも不容易ふよういな自分の発言だったことを牧園は知っていた。契約先のった肩を、少しずつ柔らかくみほぐすような口八丁で、コトはなったのである。

「なにを今さら! もう、君のとこからは金輪際こんりんざい、買わんからな!」

 一度、旋毛つむじを曲げた契約先の毛梨けなしは、牧園の話を門前払いにし、禿げて光った頭を横に振って取り合わなかった。

「そこを、なんとか…。この前のことは私の感違いによるものです。どうか、お許し下さい」

 牧園は豊富な毛をたくわえた頭を下げ、平身低頭へいしんていとう、謝罪した。

「… そんなことしても、無駄だよ! 私はいそがしいんだ、失礼する!」

 牧園は毛梨の弱点の情報を入手、分析し、柔らかくコトを収める手立てを考えていた。この手は、実のところ余り使いたくはなかった。ベテランの牧園にしては不容易な誤解で相手を怒らせ、反省していた。怒らせることはほとんどなかった牧園だったが、怒らせてしまった以上は仕方がない。ここは非常手段に出るしかない…と思え、弱点を突く手立てにしたのだ。

「この前、道玄坂を一緒に歩いておられたのは娘さんですか?」

 牧園の話題を変えた唐突な問いかけに、一瞬、毛梨は躊躇ちゅうちょした。完全に縦パス一本からのシュートによる一点である。

「… ああ、そうだ。よく、知ってるな?」

 先ほどの鼻息がえ、毛梨の声は確実に弱くなっていた。

「毛梨さんには、お嬢さんはいなかったんじゃなかったですかね? 確か…」

 牧園は、毛梨をやんわりと揉みほぐしにかかった。

「おっ? ああ、そうだ! その、なんだ…めいだよ姪!」

 毛梨の声が狼狽ろうばいしだした。

「確か、一人っ子ってお聞きしてましたが…」

 牧園は毛梨の凝ったツボを押すように言った。毛梨は完全にうろたえて困惑した。

「その、なんだ、アレだ…」

 だが、上手い言い訳が口から出てこない。深追いせず、牧園は言葉をゆるめた。

「まあ、どうでもいいことなんですが…。ひとつ、よろしくお願いします!」

「おっ? おお! …今の話は、忘れてくれよ」

 毛梨は辺りを見回しながら、さらに小さな小声でささやいた。

「分かってますよ! よろしく!」

 牧園はニンマリと笑った。

「ああ…」

 毛梨は牧園によって完全に揉みほぐされていた。


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ