(69) W杯<3>
腹が減ったことも忘れ、サッカーフェチの蹴鞠は、テレビ画面で躍動する選手達の動きに一喜一憂していた。4日前に行われたコスウタリンカとの親善試合に続き、今日のテストマッチはザンビラ戦である。蹴鞠の応援チームが、全日本の代表選手達であることは言うまでもなかった。
「攻撃は最大の防御・・と、言うからな!」
画面を見ながら蹴鞠は一人ごちた。ザックバラーン監督が前線の攻撃陣であるフォワードの選手を8名選出したことに、蹴鞠は手ごたえを感じていた。今までの過去のW杯では考えられない攻撃的な布陣である。全選手23名=FW8+MF4+DF8+GK3という布陣だ。
「いいんじゃない…」
画面を観ながら蹴鞠がそう呟いたとき、腹がグゥ~~! っと、大きく鳴った。ああ、観るのに夢中になり過ぎ、食べ忘れた…と気づいた。蹴鞠は立つとキッチンへ向かい、収納場所から箱買いのカップ麺の一つを出した。
「ゴォ~~ル!!」
湯蓋に熱湯を注ぎ入れたとき、蹴鞠は思わず叫んでいた。完全なフェチ状態である。それを自覚し、我に返った蹴鞠は苦笑いした。
前回の安易な失点と決定力の弱さをいかに克服するかが決勝リーグのベスト8以上に勝ち残る最大の課題であることは、影のサポーターを自負する蹴鞠以外にも分かる周知の事実だった。
━ 決勝でブラジリアとぶつかったとしてだ…果して、メーマールのあのサーカス芸のドリブルを躱せるのだろうか? テレビで特集されたスペーンのチャビ、イエニスターの頭脳連携プレーもスゴい! 他にもアルゼチンのメッシー! オレンダのロッビン、ポットガルのロナウト、それに、あの国の… ━
蹴鞠はカップ麺を啜りながら、意味なくフフフ…と小さく笑った。決勝という途轍もなく大きな理想マッチが、蹴鞠の脳裡に浮かんでいた。そのとき、テレビ画面から歓声が湧いた。蹴鞠はカップ麺を置き、歓声に合わせて手を小さく叩いた。弾みでうっかりし、カップ麺が横倒しになって零れた。蹴鞠の気分は微妙な状態へと変化した。
完
※ 本作はW杯開催前の作で、希望的観測を付け加えさせて戴いております。




