表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/100

(67) 特務課

 ここは特務課、通称、00[ダブルオー]課である。人事課とは一線をかくしてはいるが、ある意味で会社の頂点に存在し、特異な才を持った者達で構成されていた。その中の一人、起長おきながは一度目覚めると、一週間は睡眠を必要としなかった。丸二日、すなわち48時間寝続け、一週間起き続けられるのである。要は、通常の睡眠時間を8時間とすれば、六日分をまとめて眠れる計算だ。会社は課員の特異な才を生かすため、特務課にだけフレックス・タイム制を採用して出勤時間に巾を持たせていた。

「どうなの?」

 同じ課の先輩、遅田おそだが出勤してきた。彼は押しが強く、ねらった契約は必ず取る才があった。落としの遅田として、課に君臨していた。

「いやぁ~参ったぜ。やっこさん、ぜんぜん疲れてないぜ…」

 少し前に出勤してデスクにいた同僚の並山なみやまあきれ顔でニヒルに返した。並山の頭脳は抜群で、彼の前にパソコンの必要はなかった。

「起長に任せときゃ、仕事は片づくからな。それに…」

 遅田は手の親指と人差し指で丸を作った。

「ははは…、お前だって」

 並山は遅田をチラ見して言った。

「ははは…まあな」

「しかし、起長はよく働く。労基の36、ギリギリだろ」

「だな…」

 労基の36とは、労働基準法36条のことである。会社と組合との間で締結される時間外勤務の協定だが、組合も会社も彼には一目いちもく、置いていた。起長は、そういう異質の存在として、会社で敢然かんぜんと生きていた。そうは言っても、起長の性格が異常なのか? といえば、少しもそうではなく、むしろ会社の人気者的な陽気さのある男だった。

「あっ! ご出勤でしたか、おはようございます。今、お茶をれます…」

「いや、もう構わないでいいよ!」

 遅田が気づいて席を立った起長を止めようとした。

「もう、これで帰りますから…」

 起長は、そのまま厨房ちゅうぼうに移動し、ポットの湯を急須きゅうすへ注ぐと湯呑ゆのみへ淹れた。

「すまないねぇ~」

 並山は一応、紋切型の礼を言った。心から・・という気分で言った言葉ではなかったが、そう思って・・という言葉でもなかった。今年で三十路を越えた女事務員の居岳いだけが出勤してきた。彼女は(とつ)ぐまでの金 (かせ)ぎ・・と会社を考える、居るだけの社員だったから、出勤も遅かった。ただ、彼女は特務課へ競合会社の情報を持ち込む情報入手の才があったから、他の課員は彼女に一目いちもく置いていた。

「皆さん、お早いですね…」

 居岳は低めのテンションで小さく言った。お前が遅いんだよ! と思った遅田だったが、口には出さなかった。上には上がいて、出勤するだけの特務課長、寝木ねぎは出勤していなかった。寝木はさらに大物で、金融取引の先読みや世界経済、景気動向に明るかった。今朝も好きなミルクセーキを飲みながら、自宅のパソコン前で証券取引所の動きに余念がなかった。

「あっ、俺だ…。いつものように皆、動いてくれ」

 課のスピーカーから、拡声された寝木の電話音が響いた。寝木からの連絡は決まった時刻に入ることになっていた。寝木の声がえ、各々の動きが始まった。特務課は今日も暗躍あんやくし始めた。 


                   完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ