(64) W杯<2>
W杯前の親善試合が行われようとしていた。相手国はコスウタリンカだ。大会本番へ向け、次第にチームのスキル[技量]を高める一過程である。大会本番は、やり直しが効かないあとのない試合の連続だ。そのため、各選手達は個々のメニュ-を熟したり、ミニ試合によってチーム連携を強化する練習に取り組むことになる。ひと言で言えば、ウォームアップだ。これはチーム全体の団結力アップにも繋がる。
チームが大会へ出発する前に話は遡る。サッカーフェチの蹴鞠は、遠くからサポーターモドキに選手達のウォームアップを眺めていた。公開練習だったが、選手達の素晴らしいプレーが出るたびに、茫然とただ眺める態で両手指の人差し指同士を軽く叩き合わせて拍手した。蹴鞠の場合、遠目には騒がないただの観客だったが、内心は練習場を選手とともに走り回っていたのである。練習が終わると、蹴鞠は選手以上に疲れていた。外見は他の観客となんら変わらなかったが、彼自身は選手の一員として心の練習場を駆け巡っていたから、グッショリ疲れていた。
蹴鞠が練習場の外へ出ようとしたとき、どこかで見たような外人に出会った。しかし、どうしても思い出せなかった。その外人も蹴鞠の顔を見て首を捻った。やはり、どこかで出会ったような…という態度で首を捻っている。その外人は蹴鞠が内心の練習場で試合をしていたときの対戦相手の一員だった。彼のプレーは早く、蹴鞠は圧倒され続けた。リフティングを試合中にしていた。プレスがまったく効かなかったのである。蹴鞠はテレビのCMでその外人を見たことを想い出した。
━ そ、そうだ! ━
蹴鞠は気づいた。有名なブラジリアのプレーヤー、メーマワルだった。彼の姿はすでに、どこかへ消え去っていた。
完




