表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/100

(62) 国力

 日曜日の朝、川滝はテレビのリモコンをいじった。映し出された映像は国営テレビの日曜討論会だった。税制がどうのこうの…どうたらこうたら…と、片書きある国会議員連中により熱く語られていた。川滝は、またやってら…とめて思った。企業の内部留保が増え、国民にはその見返りがないというようなことをキツイ野党議員がキツク語った。川滝は相変わらずキツイな…とは思ったが、その通りなのだから仕方ないか…と、また思った。よく考えれば、物価を2%上げてデフレ脱却とか言ってるが、消費税も上がって国民生活は疲弊ひへいしてるんじゃないか…と、日本がまだ元気だった昭和40年代の頃を思い返し、川滝はそう思った。俺達の時代は雇用が安定していた。そこが、今とはまったく違うな、と思った。安定して働けなけりゃ、結婚も子育ても出来ない。だいいち、子供も作れないじゃないか! と少しずつ川滝は怒れてきた。少子化の問題点は、実はこの辺りの根本的なところなんじゃないか…と、また思った。退職した俺が興奮しても仕方ないな…と、川滝は茶をすすって頭を冷やした。そのとき、テレビ画面から『国力』という文言もんごんが飛び出した。そういや今は、国力を語るときGDP[国内総生産]という言葉が多用される。あの頃はGNP[国民総生産]だったな…と川滝は、また思った。戦後日本の再建、生活向上が使命の時代だった。結果、今の日本の国力が…と思ったとき、川滝は気づいた。いや、ちっとも向上してないんじゃないか…、今の繁栄は虚飾の繁栄では? と。国は多額の債務発行残高という起債をかかえている。聞くところによれば1,000兆円が、どうのこうの…どうたらこうたら…らしい。川滝は一日、やりくりする1,000円の心配をしている自分が少しあわれになった。

 去年、川滝は働こうとしたが、年金を減らされるということで断念していた。川滝はテレビを消した。そして、これじゃ日本の国力は回復しないぞ! と確信して思った。国の老齢化は益々、進んでいるという。それなら、俺達が働ける場を作ることが大事なんじゃないか…と川滝は思った。年金は今まで働いてきたことへの積立+お礼なんだから、あらたに働くことで年金を減らすというのは間違っている…と、思えた。新たに働いた分は所得税で取ればいいじゃないか! 国力回復は、その一点にある。雇用安定、年金減額反対! 我々にも働かせろ! 川滝は興奮し、思わず叫んでいた。

「あなた、どうかした?!」

 大声に驚いた妻の美登里が台所から飛んできた。

「いや、なんでもない…」

 川滝は我に返り、罰悪く茶を啜った。湯呑みはからっぽだった。


                    完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ