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(55) 新発明

 苦節20年、早丸はついに新発明を成し遂げた。ある物質の合成により人類の究極の課題、放射性元素が発する放射能を消すことに成功したのだった。

「や、やった…。やったぞ!!」

 ガイガー・カウンターの針の振れが0になった瞬間、早丸は研究室を走り回っていた。

 半年後、論文を完成させた早丸は、公式の記者会見に臨んでいた。その中には、早丸の研究を今まで小馬鹿にしてきた雑誌記者の村木もいた。

「いや、あのせつは、どうも。私も半信半疑でしたので、失礼なことを申しました…」

 早丸は村木のことを、まったく覚えていなかった。

「はあ? そうでしたか…。全然、気にしてませんから」

 口ではそう言った早丸だったが、実のところ、その男が何を言ったのか、いや、それ以上に、その男が何者なのか・・も思い出せなかった。

「発明した私が申すのも変なのですが、誰か、この物質の名前をつけていただけませんかね。この場をお借りし、公募いたします」

 記者団から一斉に笑声とざわめきが起こった。唐突な早丸の提案にMCのアナウンサーは少しあわてたが、すぐ落ち着きを取り戻して仕切った。

「その話は、のちほどさせていただきます。他にご質問は?」

「今世紀最大と言っていい、こんな大発明は、間違いなくノーベル賞だと思いますが、いかがでしょうか?」

「… それは皆さんが判断されることです。私は研究が成果をみたことが、なによりもうれしい。ただ、それだけです」

 一年後、早丸はノーベル賞を受賞していた。だが、その一年後、早丸は新しい研究を余儀なくされた。発明した放射能を除去する物質[ガイノー]が新たな公害を発生することが判明したのである。

「はやまりました…」

 早丸は記者会見で陳謝し、直立して記者団に頭を下げた。

「そうだと思ったんだ…」

 最前列に座った記者の村木が愚痴るようにつぶやいた。

「あんたには言われたくない…」

 早丸は、頭を下げたまま珍しく呟いて反論した。

 

                  完

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