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(50) 味噌汁定食

 「えっ!」

 三木は定食屋[おかど]に初めて入って、その品書きに驚かされた。

《 味噌汁定食 百二十円 》

 と、大きく書かれた品書きが、私が主役! とばかりの大きな墨書きふだで左右の側壁中央に、ドッカ! とられていた。

 この店の売りなんだろうな。まあ、いいか…と、三木は受け流し、見回して他の品書きを探した。だが、壁に貼られた品書きは、主役の左右二枚のみで、脇役札も端役はやく札も貼られていない。こりゃ、おかしいぞ…と、三木は思った。

「あの!! すみません! 注文したいんですがっ!」

「は~~い」

 大声とともにフラフラと奥から現れたのは、年の頃なら八十半ばの老人である。呼んですぐに出てきたのだから耳は大丈夫そうだが、目が駄目らしく、三木のすぐそばまで近づき、間近まじかまで顔をり寄せた。そして、ド近眼の、瓶の底のような眼鏡メガネいじり、ようやく三木が客だ…と理解した。

「ああ! お客さん、でしたか!」

 遠目で分かるだろうがっ! と少し怒れた三木だが、そこはおさえて、口に出さなかった。

「注文したいんですが…」

「ああ、注文ですか。はい、どうぞどうぞ」

「あのう…、アレしか出来ませんか?」

「はあ?」

「だから、そこに貼ってある以外は出来ないんですか、っていてるんですが…」

「ええ、うちは、それだけです。それだけのもんです」

 三木は馬鹿にされているようで腹立たしくなった。

「あのね! 味噌汁定食って、どんなんです?!」

「えっ? 味噌汁定食は味噌汁定食ですよ」

「だから、その味噌汁定食は、どういうのですか?」

「どういうのって? …定食ですよ。お客さん、分からない人だな」

「分からないのは、あんたでしょうよ!」

 三木は少し語気を強くした。

「いやぁ~、分からないのはお客さんでしょ。味噌汁定食は味噌汁の定食です!」

「… … あんた、分からないんだ!」

 三木がそう言ったとき、老人は奥へ素早くもどると、トレイに味噌汁入りのわんと八分目ほど盛ったどんぶりめしを乗せて、ふたたび現れた。

「お客さん、いいですか! これが味噌汁定食!」

 確かに味噌汁が付いた定食だ…と、三木は文句が言えず、思った。

「あの…オカズは?」

「オカズ? オカズは味噌汁でしょうが。ははは…おかしなお人だ」

「…」

 三木は言い返せず、押しだまった。


                   完

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