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(5) 優雅な生活

 ホームレスの増町兼造は、かつて大会社の社長だった。飛ぶ鳥を落とす勢いで事業を拡大させたが、度が過ぎれば、物事は左回りするものである。海外進出企業でにわかに起きた需要の衰え[買い控え]により、会社は事業拡大を断念し、資本撤退に追い込まれた。追い討ちをかけるように反転攻勢にさらされた会社はリストラ等による規模の縮小を余儀なくされ、ついには会社再建法の適用を申請し、倒産したのである。管財人による資産処分がされ、大幅な赤字は完済されたが、その事後に残った増町の財は何も残っていなかった。所有資産は、ことごとく抵当権の対象となり、不動産、貴金属、預貯金、家屋…などは、ことごとく没収されたのである。その結果、増町は今のホームレス生活を続ける破目におちいったのだった。

 大会社の社長、楢崎治郎は、かつて路端のホームレスだった。拾っては集め、また拾っては集めた挙句、ついにある日、ゴミ袋に包まれた草むらの二億円を拾った。金に執着心がなかった楢崎は、その大金を警察へ届けた。落とし主は現れず時効となり、その大金は楢崎のものとなった。楢崎には生れ持った商いの才覚があった。楢崎はそれを元手に小商いを始めた。それが馬鹿当たりし、楢崎の店は会社へと発展した。そしてさらに飛躍発展し、今の大会社社長の椅子へ座ったのだった。

 二人の違いは優雅な生活への関心にあった。増町は優雅な生活を続けたいと望み、楢崎は取り分けて思わなかった。その二人の違いが、どういう訳か裏目に出た。

 二人は幼馴染おさななじみだった。だからよく遊んだ。二人は、あるとき、河原で石拾いをした。増町は楢崎が拾った石を見て欲しくなり、交換してくれないか、と楢崎に頼んだ。楢崎はどうでもよかったから、増町の交換に応じた。その二人の発想の違いが人生を分けた。 

 二人の優雅な生活は無の中に存在した…という、ただそれだけの逸話である。ただし、これを読まれる方々がそのように真似て心がけられても、そうなることは保障し得ない。


                  完

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