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(47) どうもこうも…

 人間には我慢の限界というものがある。それは肉体的なものと気分的なものに分けられる。この男、浜下は神経がないのか? と他人が思うほどにぶい男だった。別に意識してのことではなく、生まれつきの性分なのだから、誰一人として、彼を怒らせる事は出来なかった。

 あるとき、有名財閥の息子の伊藤が偶然、この男と接触する機会を持った。そんな偶然があるのか…と思えるほどの偶然である。というのも、伊藤には絶えずボディガードが数名付いていて、寸分のすきなく彼をガードしていたからである。

 浜下はこのとき、とあるホテルへ泊っていたが、単純な新入りホテルマンの手違いで、伊藤の部屋の予備キーを渡され、その部屋に入った。この時点では、伊藤はホテルへ到着していなかったから、なんの問題にもならなかった。伊藤の超高級外車がホテルへ横づけされたのは、その30分後である。到着後、当然のようにボディガードはフロントで手続きやら何やらを簡単に済ませ、部屋へ伊藤を誘導した。いつものことのようで、リッチ気分で鼻歌を唄いながら前後にボディガードを従え、伊藤は歩いた。部屋の前へ到着し、ボディガードはおやっ? と、首をひねった。部屋のキーが開いていた。長い経験で、そんな馬鹿なことはないと分かっているからだ。まあ、いいか…と、部屋へ入って驚いた。浜下はバスから出て、いい気分でくつろいでいるところだった。

「なんだ、お前は!!」

「あっ! すみません!」

 浜下は訳が分からないまま謝っていた。

「ぼっちゃんの部屋に、なぜお前がいるんだ?!」

「? どうもこうも…」

 浜下はドキリ! としたが、いつもの鈍感さで頭を掻きながら柔らかく返した。

「すぐに出ろ!!」

 浜下は怒ることなく、素直にうなずくと荷物をまとめかけた。他のボディガードが内線を手に取り、フロントへ苦情を言っている。浜下は急いで部屋を出た。階下へ降りようとエレベーターを待っていると新入りホテルマンが慌ただしく上ってきて出くわした。

「すみません! 鍵を間違えたようです! お客様はこちらを!!」

 ホテルマンは新しい部屋のキーを渡した。だが、それも間違っていた。国賓待遇のビップクラスがお忍びで御泊りになるという部屋だったのである。

 その一時間後、浜下はまた同じ言葉を口にしていた。

「? どうもこうも…」

 そして、その繰り返しが数度あり、もう明け方近くになっていた。結局、浜下は部屋を取れないまま、ロビーで眠る破目になってしまった。それでも、鈍い浜下は怒らなかった。

「? どうもこうも…」

 ホテルを出がけにロビーで浜下はそう言った。ホテル側は支配人以下が平身低頭で平謝りである。

「誠に申し訳ございませんでした!!」

「えっ?! ロビーで寝違えて、首が少し痛いと言いたかっただけですが…」

「はあ?」

 浜下の鈍さに、ホテル側一同はボケ~っとした。


                  完

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