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(44) 宇宙とは?

 宮野は、今日も空を見上げていた。雨の日も風の日も雪の日も、そして夏の暑い日でも、もちろんその逆の冬の寒い日も、彼は定位置に決めた部屋の一角から見上げていた。一日に一回、見上げるのが彼の日課だった。その時間、ほぼ30分・・これが彼の見上げる時間だった。彼は時間など気にはしていなかったが、体時計がその30分を、ほぼ正確にきざんでいた。そして、その日も宮野は見上げていた。

「… まあ…」

 なにが、[まあ…]なのかは分からないが、宮野はポツリと、そうつぶやいた。彼は考えていたのだ。大学講師で天文学の教鞭をとってはいるが、科学では到底解明できない何かが宇宙には存在している…と。人はなぐさめごとのように大気圏を突破し、宇宙ステーションやら人工衛星やらとにぎやかに打ち上げ、勝ち誇ったかのように満足はしている。だが、それは単に三次元科学ですべてを解決しようという人間のエゴではないのか…と。そんな疑問が沸々(ふつふつ)と宮野の脳裡のうりたぎるのだった。我々は地球上に生息する単なる動物のくせに、どうのこうのと知らない宇宙を推断している…と、彼は空を見上げて思った。そのとき、宮野の胸ポケットの携帯が激しくバイブした。着信メールは研究室の上司、中江教授からだった。

━ 陸運局から妙な電話が研究室に入ったんだが、訳が分からない。宇宙人? そんなことはないか。^^ できれば、折り返しの連絡を待つ 中江 ━

 内容を見た宮野はすぐに携帯を入力した。

「陸運局ですか? 僕も心当たりがないんですが…。はい! 詳しくは、明日あした

 その日、宮野は所属のテニスクラブの会合で大学へは出勤せず、会合のあと、早めに帰宅して家にいた。妻は夕飯の準備に余念がない。母は仏壇に座り、いつの間にかミカンを食べながらウトウトしている。そういえば、すっかり陽気が春めいたぞ…と宮野は携帯を胸ポケットへもどして思った。

 知らないうちに青空は朱とオレンジ色を含んで暮れようとしていた。夜が間近い。この空の行き着く先に何があるというのか? 宇宙に大きさはあるのか? だとすれば、宇宙の外に何があるというんだ? 宇宙は本当に膨張しているのか? 風船のように? そして、その風船は破れ、ビッグバンを起し…と、学生に教えてはいるが、それは人間の一抹いちまつの慰めなのではないか? 人間は何も分かっていないのでは? つまるところ、何だ! 宇宙とは? いつもの定位置で夕空を見上げながら、天文学者の宮野は、いつも湧く疑問に首をかしげた。

「Wu~、Wan!!」

 突然、足元のポチが鳴いた。『ご主人、もの好きだわ…』と、宮野には聞こえた。


                  完

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