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(38) 尾鰭[おひれ]がつく

 話には、どうしても尾鰭おひれがつく。少し大きく話したいのが人の性分しょうぶんなのか、自分の話を他人に注目させて聞かせたい・・という願望なのか、その辺りのところは微妙だが、とにかく人は話す内容を飾り立てる傾向が強い。

 小学校の父兄参観が終わり、二人の母親、沙代と美登里が語らいながら帰り道を歩いていた。

「多田さんの奥様、最近、なんかよそよそしいわね」

 沙代が美登里に愚痴をこぼした。

「そらそうよ。旦那さん、会社で出世なさったそうよ。だから…」

 少し得意げに、美登里が沙代に返した。

「あらぁ~~、そうなの。誰からの情報?」

蕪野かぶのさんの奥様」

「あの情報屋の蕪野さんの情報なら間違いないわね。道理で、よそよそしいはずだわ」

「なんでも、部長から執行役員だって…」

 また得意げに美登里が話す。

「執行役員ってなに?」

「平たく言えば取締役なんじゃないの」

「ふ~~ん、取締役か。偉いんだ…。うちなんか、ようやく課長補佐よ」

「私んちだって課長だから、大したことないわよ」

 いつの間にか二人はお互いを慰め合っていた。

「偉いのよねぇ~!」「偉いのよねぇ~!」

 沙代と美登里は憤懣ふんまんやる方ない言い方で、声を大きくした。

 その二日後、沙代と奈美江がスーパーの帰りなのか、買物袋をげて歩いていた。

「多田さんの奥様、最近、なんかよそよそしいと思わない」

 奈美江が沙代に愚痴をこぼした。

「旦那さん、会社で出世なさったそうよ。だから…」

 少し得意げに、沙代が奈美江に返した。

「あらぁ~~、そうなの。誰からの情報?」

「美登里さん」

「ふ~~ん。道理で、よそよそしいはずだわ」

「なんでも、部長から執行役員だって…」

 また得意げに沙代が話す。

「執行役員って?」

「平たく言えば社長の下なんじゃないの」

「ふ~~ん、社長の下か。副社長よね。偉いんだ…。うちなんか、ようやく課長代理よ」

「私んちだって課長補佐だから、大したことないわよ」

 いつの間にか二人はお互いを慰め合っていた。

「偉いのよねぇ~!」「偉いのよねぇ~!」

 沙代と奈美江は憤懣やる方ない言い方で、声を大きくした。尾鰭おひれがつき、多田はどんどん出世していった。


                 完

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