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(36) 人材屋

 今日も朝から人材屋は大賑おおにぎわいである。

『はあ、さようで! 真言宗ですか…。おっ! ちょうど手頃なのがおります。そうでございますね。今からですと、そちら様へは九時前には着けると存じます! はい! では、そういうことで…。今後とも、ご贔屓ひいきに! はい! 有難うございました~!!』

 手配室の電話で客を上手うまくあしらったのは人材派遣の店・人材屋の主人で本坂という。本坂は机上のリスト簿を開け始めた。電話では、いると言った本坂だが、実のところ手頃なのは、これから探すつもりなのだ。そして、しばらくして確認した本坂は、すぐ内線電話をいれた。

『おい! 川北君、真言宗だから君の出番だ。先方さんはすぐ来て欲しいと言っておられる。よろしく頼むよ』

『分かりました。すぐそちらへ行きます』

 待機室には手頃な人材が多数、詰めている。医師、教師、家庭教師、弁護士、牧師、僧侶、庭師、理髪師、マッサージ師…など、公職を除くありとあらゆる職業の者、ざっとその数、200人ばかりが室内で出番を待っていた。これだけいると、当然ながらまったくお呼びがかからない者達もいた。彼等は日長、将棋や囲碁などをやっていた。もちろん、教えているのはアマチュアながらプロに引けを取らない有段者達で、職業として控えている連中である。だが、お呼びがかからない者達でも、給料は生活に困らない程度の一定額が支給されていた。中には、数か月、いや一年以上、まったくお呼びがかからない者達もいた。川北は待機室の中で、特に人気がある僧侶の一人で三宗旨を受け持てた。川北は依頼先の詳細と住所を確かめるため、手配室へと向かった。

「ああ、川北君。行ってもらうのはここだ」

 本坂は入ってきた川北に依頼先のデータが書かれた紙を手渡した。

「ほう! 家じゃなくてホールですか?」

「ああ。なんでも知り合いの寺がないそうだ」

「都会じゃそういうの、最近、多いですよね」

「だな…。九時前には行くと言ったから急いでくれ」

「分かりました。では、さっそく」

 川北は手配室を出ると、衣装室へ向かった。衣装はひと揃い、どんな職業のものもあった。衣装室へ入った川北は、帰って来て着替え中の安西と出会った。安西は牧師で、一泊二日で結婚式へ出張していたのだ。

「やあ、ごくろうさんでした! どうでした?」

「ああ、これは川北さん。新郎新婦とも幸せそうでしたよ」

「それは、なによりでした。私はこれから告別式の読経です」

「お気の毒なことです…」

「ははは…人生ですなぁ~」

 二人は顔を見合わせ笑った。人材屋は今日も大賑わいである。


                  完

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