(31) 夢か…
国連本部ビルだ…と、小学校五年の俊也は思った。だが、なぜ自分が飛行機のようにフワフワと二ューヨーク上空を飛んでいるのかが分からなかった。その疑問を深く考える間もなく場面は変わった。俊也は国連本部の中を見学していた。国連の女性職員と思われる外人に日本語で説明を受けていた。その外人の日本語は流暢だった。同級生もたくさんいて、俊也は彼等の中の一人として、ぞろぞろと歩いていた。よく見れば職員だけでなく、内部にいる人々はすべてが日本語で話していた。
『あそこに浮かんでいる航空母艦は国際連合の所有物で、多目的な平和利用のために使用されています』
職員が指さす方向には、確かに航空母艦が見えた。ただ、その空母は俊也がテレビで見た航空機を甲板上に一機も搭載していなかった。
『ただ今、艦内では、ユネスコ主催による世界言語学会が開催されております。艦内には世界各国から選ばれた言語学者が一堂に会し、地球上のどこでも通じる新たな地球語開発を行っています』
ほう、そうなんだ…と、俊也は単純に思った。そのとき、一人の同級生が突然、質問した。
『甲板にあるアレはなんですか?』
同級生が指さす方向を見ると、妙な屋台があった。どう見ても、夜鳴き蕎麦屋の屋台だった。
『ああ、アレですか。アレはお蕎麦の出店ですね。今日は日本のサービス・デーですから、甲板上では、他にも日本のいろいろな料理が艦内の人々に振る舞われます』
『ということは、お寿司とか?』
『はい、そうですね…』
言葉のあと、甲板上には次々とそれらしき出店が姿を現した。いつの間にか、ざわざわと学者達も現れ、勝手気ままに話しながら好きな食事を選んで移動している光景が見られた。俊也は皆と一緒にその光景を見ていた。そのとき急に場面が変わり、俊也は空母の中で美味そうにインドカレーを食べていた。
『俊也! 俊也! 起きなさい!』
俊也は声がする方向を見回したが、辺りは海原に青い空だけだ。おかしいな…と俊也が思っていると、艦が俄かに揺れ出した。それとともに俊也の意識は朦朧となった。
気づくと、母が俊也の肩を揺すっていた。いつの間にか俊也はキッチンテーブルの椅子に座り眠ってしまったのだ。夕飯を準備する母が作ったカレーの匂いがした。俊也は、夢か…と思った。
完




