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(28) 雨漏[あまも]りするボロ家

 朝からポツポツ…と降り出した雨滴うてきが、昼過ぎにはザザァーと本降りとなり激しさを増した。こうなると、手の空いた子供はいそがしくなる。屋根のあちらこちらと、雨漏あまもりが始まるからだ。子供達は、それぞれが鍋と茶碗を持ち、天井を見上げながらしずくが落ちるゆか板へそれらを置いていく。床に畳は入っていない。夏は冷んやりとしていいのだが、冬場は冷たい上に、床下から隙間すきま風が吹き上がり、たいそう寒かった。

 雨は勢いを増し、しばらくすると、ゆかの上を見てでないと茶碗や鍋を蹴飛ばしそうで歩けなくなった。

 中岡家の家族は夫婦と子供が六人である。日々、貧しい生活ながらも、この家に笑いが絶えたことはなかった。旦那の太治は三 たんの田畑で農業をしている。妻の初江はその太治を手助けしているが、身籠みごもっていて、この春にはもう一人、七人目が生まれる予定だ。太治の信念は、ボロ家でも楽しい我が家である。家族に囲まれ、幸せに笑って暮らせるボロ家があれば、それでいい…という信念である。

小一時間、降った雨はようやく小降りとなり、夕方近くには幸い、やんだ。太治は、ひとまずホッ! とした。やまないと小屋で家族が寝なければならない。というのは、茶碗や鍋が置かれた上に布団は敷けないからだ。テレビもラジオもない中岡の家では、楽しみは家族全員でやる双六すごろく遊びである。家族全員が参加し、60wの裸電球一ヶが照らす灯りの下で、ワイワイと食後、八時過ぎまで楽しむのだ。これには特典が付いていて、勝った者は翌日のおかずが一品、増えるのである。昨日は三男の太三が勝ち、朝一番で飼っている鶏の卵をせしめた。一番上の兄とすぐ上の姉はそうでもなかったが、幼い弟や妹達はうらやましそうに太三の皿に乗った卵焼きを見つめた。太三はその羨望せんぼうの眼に耐えられず、弟や妹達に卵焼きを分け与えた。結局、太三が食べられた卵焼きは、ほんの一口だった。それでも、家族の笑い声は絶えず、長閑のどかなひとときが流れていった。これが中岡家の家風である。この家の中は、一歩外へ出た途端、殺伐とする世間とは異質の生活風景が存在していた。


                   完

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