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(27) それでいい…

 一生懸命やっているのだが、今一つ成績が上がらない耕太は、これが僕の実力か…と半分方、あきらめ気分になっていた。だが、救いの神はいるものだ。担任が変わった小学四年の春、耕太の成績はにわかに上がり始めた。担任の室川先生は新任教師だが、実に上手く生徒の個性を把握はあくして、一人一人にその個性を伸ばす方法をアドバイスした。先生は当然、クラス全員を対象にしていたから、耕太だけでなく、他のクラス仲間の成績も上がりそうなものなのだが、先生に言わせれば、それには先天的な個人差があるようで、すべての生徒の成績が極端に上がるということではない・・と父兄は家庭訪問で聞かされていた。

「ああ、出来なきゃ、それでいいよ。うん! それでいい…」

 室川先生の口癖である。耕太はその先生の言葉を聞くと解放されたような気分になった。すると、それまで筋道的に解けなかった問題や、思い出せない問題、考える問題が、ものすごく簡単に解答できるようになるのだった。結果として、耕太の成績は急上昇したのである。もちろんクラス仲間達も、それなりに上ることは上がっているようだった。クラスでは、先生を真似て、それでいい…と言うのが流行していた。

 となりのクラス担任は室川先生と真逆の教育方針をとっていた。必ず解かせる、思い出させる、考えさせる、・・という方針である。どちらの担任も相手の教育方針が間違っているとは思わなかったが、それでも自分の信念は曲げずに担任を続けていた。

 あるとき、ふたクラス合同の市展に出す図工があった。耕太のクラスは独創性で美術展入賞者が続出した。耕太の作品も特選・市長賞に選ばれ、トロフィーと賞状をもらった。別のクラスの生徒は一人も選ばれなかった。もちろん、その現象は偶然、起こったとも考えられた。しかし、必然的にそうなったと考えられなくもなかった。

 それ以降、学校は、[それでいい…]効果として、室川先生の教育方針を高く評価するようになった。


                  完

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