表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/100

(21) 験(げん)かつぎ

 ありとあらゆるすべてのことにげんをかつぐ男がいた。この男の名は北矢洋二といった。験をかつぐとは、ある種のまじないである。過去によい結果だったから、それと同じことをして吉兆を呼び込もうとする行為だ。

 白々と夜が明け始めた頃、北矢は自宅の離れにある専用のほらの中で護摩木を焚いていた。今日の朝食のおかずは何にしよう…と迷い、精神を集中するためである。昨日きのうの朝は厚焼き卵を添えたが残念な一日になってしまったのだ。『よし! ここはひとつ験をかつごう…』と北矢は思った。三日前は納豆に白ネギを刻んで入れたものを添えたが、これがどうして、抜群の好結果を生んで、北矢フードの売り上げは跳ね上がったのだった。その験をかつごうというのである。そうと決断すれば北矢の動きは速い。アッ! という間に朝食の準備が整い、食べ終えていた。そのかんおよそ15分。早食いは消化に悪そうだが、北矢は生れもって胃腸が弱く、雑炊とかおかゆにして主食のご飯がわりにするのが日常だった。

「店長! また大口が舞い込みました! どうします? アルバイトをやとわないと品がそろえられませんよ!」

 食後、洗い物をしていた北矢の携帯に責任者の坂波から一報が入った。

「ちょっと待ってくれ! 十分後にこちらから連絡する」

「分かりました…」

 坂波は携帯を切った。北矢は足早にそそくさと、ふたたび洞へ向かった。洞へ入ると座り込み、一心に護摩木焚きである。そして、五分ばかりが経過した。

『今をさかのぼること二年前…あのときもアルバイトを雇おうとしたんだ。ところが、その日を境にどういう訳か売れ行きが落ち始めたんだった…。よし、これだな!』

 北矢は立つとすぐ携帯を手にした。

「坂波君か! 悪いが大口は無理だ。当分は小口にしてくれ!」

「分かりました!」

 その日の夕方、坂波から北矢にまた携帯が入った。

「店長! 小口にしてよかったですよ。朝に電話した大口の取引先ですが、先ほど不渡りを出し、倒産しました!」

「そうか、よかったじゃないか。ははは…」

 坂波の携帯が切れた直後、北矢は夕飯のおかずを何にしようか…と護摩木を焚いていた。五分ばかりが過ぎ、おかずが決まった。北矢はそそくさと、炊事場へ向かった。どうも、しゃぶしゃぶに決まったようである。験がいいおかず、ということのようだ。

 これは余談だが、北矢が北矢フードへ出勤した日は一度もない。すべては坂波が店長代理で店を取り仕切っている。そのすべての采配さいはいは北矢への携帯で決まるのである。


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ