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(17) そろそろ

 宮園家では、世間では到底考えられない古くからの伝統があった。家風として代々、大切に守り継がれてきた行事である。とはいえ、それは神仏とはまったく関係がなかった。

「おい凌翔りょうしょう、そろそろ、あの準備をな…」

 すでに隠居して滅多と姿を現さない白髭しろひげを蓄えた凌幻りょうげんが今年、古希を迎えた息子の耳元へ小声でつぶやくように言った。

「心得ております、父上…」

 凌翔も心に留めていたのか、素直にうなずくと、スクッと立ち上がった。そして、片隅に置いた古い木箱から一足の白い草鞋わらじを取り出した。そして、おごそかに両手で頭上におし頂くと、かしこまって頭を畳につけ、一礼した。このときから宮園家の古式的行事は始まったのである。

「そろそろ、草鞋もまねば…。お前も見ておくとよい」

 一礼を終え、白草鞋を白紙の上へ静かに置いた凌翔に、凌幻が静かに語った。

「父上は、まだまだ…」

「いやいや、もう歳じゃによって、万が一のこともあろうゆえのう」

 凌幻は息子へさとすように続けた。そしてヨロヨロと立ち上がると、白紙の上の草鞋を手に取り一礼して両足にいた。

「家族の者達を呼びなさい」

 凌翔が去り、しばらくすると子供を含む五人が凌翔に続いて現れた。凌幻の妻、凌翔の妻、そして凌翔の三人の子である。それを見届け、凌幻は白髭を撫でながら静かに告げた。

「揃ったようだな…。そろそろ、始めるとしよう。皆、その隅へ座りなさい」

 凌幻に命じられた家族全員は、片隅で一列に正座した。凌幻が両手をパシッ! と叩いたのを合図に、賑やかなロック調のリズムが部屋に響き始めた。音を自動感知してスイッチが入るシステムである。凌幻はもの凄いフリで踊り、やがて胸元から取り出したマイクを片手に絶叫してロック曲を唄い始めた。


                  完

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