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(13) でました!

 ここは都会の片隅にある繁華街の裏通りである。時折り、酔っ払いがそぞろに通り抜ける片隅で、吉川は八卦はっけの易者稼業を今夜も続けていた。夜風がはかますそで、その冷たさに、今夜はこれくらいにしようかと椅子から立ち上がった、そのときである。フラ~リ・・フラ~リと、どこから現れたのか、酒に寄ったホステス風の若い女が、ドカッ! と客椅子に座った。

「なにっ!? あんた、私じゃられないっていうの?」

 吉川は長年の感で、性質たちの悪い客につかまったな…とひたいしわを寄せた。外見からして、かなりの酩酊状態である。吉川は、『酒癖が余りよくないようだ…』と、占い師の直感で推断した。

「あっ! そんな、つもりじゃ…。ど~れ、拝見させていただきましょうかな」

 そう言いながら、吉川はあわてることなく、ゆったりと、ふたたび椅子へ腰を下ろした。

「分かりゃ、いいのよ!」

 女はそう言うと、サッ! と右の手の平を広げて吉川の前へ差し出した。

「で、何を?」

「私さぁ~、どうも男運がないのよねっ! これさっ! …なんとかなんない! アアッ! 腹が立つぅ~~!!」

 女が急に叫び出し、差し出した手の平を引っ込めた。吉川は、『うわっ! 最悪だ…』とテンションを下げた。

「お客さん、落ちついて!」

 吉川がなだめ、女は不承不承ふしょうぶしょう、まあいいわ…みたいな顔をして落ちつくと、もう一度、手の平を吉川の前へ差し出した。その速さが緩慢になったのを見て、吉川は、『まあ、なんとかなりそうだな…』と思ったが、自分は手相は見ないことに気づいた。しかしまあ、女は酔っている・・と女の手の平を取るとのぞき込んだ。手相を見ながら、吉川は筮竹ぜいちくは、そのあとでいいか・・と頭を働かせた。

「お客さん… … でてますな。おやっ! 五日後に出逢われる男の方があなたを救う・・と、でている。まあ、私の専門外ですから、当てにはなりませんがな。では、専門の方で…」

「ふ~ん、五日後ね…」

 女は絡まず受け流したから、吉川はホッとした。ここからは自分の専門分野である。女の手を離すと、筮竹を両手に握りしめ、吉川はいつもの呪文めいた気合い言葉をつぶやいた。

「ウウッ~!! でました! 男運は、あなたに、まったくありません。あなたの男運はすべて暗剣殺!」

「そうか。やっぱ、駄目なのね…」

 先ほどの語気はどこへやら、女は淋しそうに静かに立つと見料を支払って立ち去った。夜風が冷たくヒュウ~~と鳴った。吉川は立つと、小忙しく道具を仕舞い始めた。

 その一週間後の夜、この前の若い女が、またどこからか現れた。酒に酔った気配はなく、表情も素である。

「おや、この前のお客さん…」

 吉川は自分の方から女に声をかけた。

「易者さん、有難う。五日後さあ、素晴らしい男性に出会ったのよ。私達、結婚することになりそう!」

 女は急に快活に微笑むと、軽くお辞儀して立ち去った。吉川は言葉を返せなかった。本職の筮竹の八卦が外れ、適当に言った手相占いが当たったからだった。吉川はテンションを下げ、酒を飲みたい気分になった。


                     完

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