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(10) うたた寝 

 関谷は星を見ながら、うたた寝をしてしまった。今日で三日、新星の発見に余念がない。余念がないのはいいが、それがもとで、まったく眠れていなかった。新星を発見したのは三日前だった。関谷の目に、はっきりとその姿が捉えられたのだ。もちろん屈折望遠鏡を通しての姿だが、関谷はその瞬間、やった! と思った。だが、10分後、その新星は関谷の目の前から消え去っていた。それ以降、今日で三日、その新星を捉えられていなかった。

「風邪、ひくわよ…」

 妻の美里に起こされ、夜の冷気で関谷は目覚めた。美里が肩にかけたダッフルコートが暖かかった。すでに明け方近くの四時にはなっている星達の輝きだった。関谷の頭の中には星の運行図が完璧に記憶されていた。その記憶でいけば、ちょうど四時頃の星座の位置だった。

「ああ…」

 関谷が定点観測に入ったのは、もう三年ばかり前である。当時はまだ天体観測が出来る機材を友人から借りて観測に明け暮れていた。家の離れに小ぶりながらも小屋仕立ての天体観測所を、うたた寝しながら自前で作り、完成させたのが七年前だ、その頃から、勤めと観測で、うたた寝する日が続いていた。学者でもない関谷がそこまでのめり込むのには理由があった。天体観測の楽しさを教えてくれた親友の池崎が三年前、世を去ったのだった。その今際いまはきわに枕元で関谷に星図を渡し、いい残した言葉が新星観測の引き継ぎだった。だから、関谷にはうたた寝してでも新星を発見しなければならない心理があった。

「食べないで、体に毒よ。はい、これ…、置いとくわね」

 魔法瓶に入れられた特製ポタージュスープは、いつも関谷を元気づけた。

「ありがとう…」

 言葉とともに、申し訳ない気分が関谷の胸に訪れた。二人の生活を犠牲にしているつぐないは、いつか返さねばならない…とは、つねづね関谷が美里に対していだいている感情だった。

 美里が小屋を出て数分後、おもむろのぞいた望遠鏡の中に、消えたはずの新星のまたたきがあった。関谷は小躍こおどりした。

 数日後、新聞には華々しく新星発見の記事が掲載され、テレビ各局でも賑やかに報道された。ただ、新星名は関谷のかつての願いで池崎新星と名づけられ、関谷の名が世に出ることはなかった。

 テレビが新星発見のニュースを報じていた。関谷は妻と座る久しぶりのテーブルで、うたた寝をしていた。その寝顔の中に、安堵あんどした笑みがあった。美里は何も言わず、その寝顔をただ微笑んで見続けるのだった。


                  完

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