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バッドエスパー  作者: 村人Z
3/11

再開

「すごいね、地下室があるなんて。なんか楽しみ!」


 カナタが栞に手紙の事を話したあと、思いのほかテンションが高い栞が、笹木家(カナタ側)の廊下をカナタの後ろについて歩く。


 栗色のふわっとした長めの髪と、白いレースのワンピースが廊下を吹き抜ける涼しげな風に揺れる。


「でも私、結構探したけどスイッチ全然見つからないし、イタズラかもよ」


 前を歩くカナタが冗談めいた調子で言う。


「え~、でも私達の超能力について書いてあったんでしょ? だったらあるよきっと」


 わくわく! といった様子で返す栞は、恐怖心よりも好奇心の方が勝っているようだ。


 しかしカナタも栞の楽観的というかどこかズレている部分のある性格は知っている為、あまり気にすることはない。


「でも逆にスイッチがあったとしたら手紙に書いてあったことが本当って事じゃん? なんかそう考えるとちょっと怖いなー」


 そんな事を言いつつも、カナタもなんだかんだどちらかといえばあって欲しい。好奇心も確かにあるが、もしこのまま何も無く終わってしまったら、結局超能力が何なのか分からないままだ。今更それも何だかもったいないというか、煮え切らない気がする。

 

 そんなこんな話をしながら、2人はトイレの前まで来た。


「よし」


 カナタは少し気合を入れた様にそう言うと、トイレのドアを開け中に入る。トイレの中は、ドアを閉めていたせいで熱がこもってしまっていて蒸し暑い。


「……うわ暑い」


 カナタはうっかりドアを閉めて出てきたことを後悔した。


「あつーい……この中でやるの大変そうだねぇ。あ、これはい」


 そう言って、栞は持っていたバッグの中から冷たい飲み物が入ったペットボトルを取り出してカナタに差し出す。


「うわ、ありがとう。助かるよー」 


 カナタは嬉しそうにそれを受け取るとすぐにフタを開け勢い良く飲む。1人での作業中何も飲んでいなかったカナタの喉は水分を大いに求めていた。


「で、私はどの辺叩けばいい?」


 栞がトイレを見渡しながら聞いてくる。


 カナタはペットボトルから口を離し、


「えーっと……じゃあ」


 トイレの入って右側の隅を指差した。


「あそこからやってもらっていい? そこ1度叩いてみたんだけど、もしかしたら見逃してるかもしれないから」


「うん、わかった」


 栞が首肯する。


 カナタも初めは栞にまだ探していない所をやってもらおうかと思ったが、もう残っている所は便器の裏側くらいしかなかった為とりあえずやめておいた。手伝ってもらうというのにいきなりそんな所をやってもらうのは、長い付き合いとはいえ気が引けた。


 カナタは仕方なく自分でトイレの裏側を探すことにする。

 

 二人はそれぞれの位置につき作業を始める。



 コンコン。


 ……………………………。


 

 コンコン。


 ……………………………。



 コンコン。


 ……………………………。


 

 コッ。



 「ん?」


 また外したのかと思いカナタが再度ため息を吐こうとした瞬間、叩いた床から何か伸びのない軽い音がしたような気がした。


 タイミング的に早すぎるような気がしたが、でも探していない最後の箇所でもあるわけだし、もしやと思いカナタはもう一度慎重にその箇所を叩いてみる。


 コッコッ。


 コッコッ。


 やっぱり。その箇所は気のせいではなく明らかに音が他の箇所と違っていた。その音はそこの下の、それも浅いところに何かがあるんじゃないかと、つい思わせるようなそんな音だ。


 カナタは急いで栞に言う。


「ねえねえ!ここかもしんない!」


「えっ、はやっ! 本当!?」


 そう言って、熱心にドアの付近の床を叩いていた栞が、作業を止めて急いでカナタの方へ寄っていく。


「叩くよ、聞いてて」


 そう言ってカナタが丁寧に床を叩く。


 コッコッ。


 やはり伸びのない軽い音がする。


「本当だちょっと違う。……てことはこの下にスイッチがあるのかな」


 栞が少し興奮気味に言うと、突然カナタがそこを親指で強く押し始める。 

 

「確かっ……こうしろって………書いてあった………よっ」


 カナタが親指に一気に力を込めた瞬間、押していたところの床が親指の第一関節のあたりまで下がった。


 そして、トイレの真ん中辺りからカチッという音がして便器の前の床、座布団一枚分程の範囲がそこだけ切り取られたように僅かに沈む。


「うわっ、えっ、何? すごい」


 栞が突然の事に、驚いたように沈んだ床とスイッチとを交互に見る。手紙に書いてある事は本当だとは思っていたが、実際に目の前で仕掛けを見るとそれでも驚いてしまう。


「本当にあったんだ」

 

 カナタがそう言い、二人は立ち上がると移動し、床の沈んだ部分を挟むようにして座る。そして、まるで掃除中に出てきた見知らぬダンボール箱を見るかのように先ほど沈んだ床をじっと睨めつける。


「どうする?」


 栞が床をじっと見つめたままカナタに聞く。

 

 カナタも真剣な表情で床を見ている。


 そして、口を開く。


「よし……とりあえず開けてみよう」


 意を決してカナタは恐る恐る床に手を伸ばす。


 床に指先が触れる。カタッという軽い音がしたが、そのまま少し力を入れて押してみても何も起きない。


 今度は床をずらしてみる。カナタはトイレ側、つまりカナタから見て左側に向けて床に触れる手に力を入れる。




 ……ずずっ。



 

 床が僅かに便器側にずれた。


 床は思ったよりも軽く、カナタの手にはあまり手応えは無かったが、実際手応えがあろうと無かろうと今そんな事は気にならなかっただろう。


 動かした方の反対側に黒い隙間が覗いたのだ。


 それを見てカナタは息を呑む。


「あった……」


 驚くカナタの頬に一筋の汗が伝う。


 これがきっと、地下室へ続く通路なんだろう。


 手紙の内容に半信半疑だったカナタの気持ちも、今はもう確信に変わっていた。


 栞の方を見ると、栞もカナタの方を見て「うん」と頷く。


 そして、カナタは床を更にずらして隙間を広げる。







 するとそこには薄暗い空間があり、鉄製の階段が下へと続いていた。

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