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7.陶金併用時代の地下トンネル

 2018年、世間を騒がせる大発見があったことを覚えているだろう。

 ゴート市地下、「硬質地層」のさらに下に横穴が発見されたのである。しかし、陶金併用時代の遺跡において横穴が発見されることはさして珍しいことではない。この発見が大発見だったのは、ひとえにその大きさである。

 横穴高さが1.7×6m。円形に掘り進められており、壁は白色無機質構造体で塗り固められていた上に奥行きが1.7×1000mもあった。しかも調査によればその横穴の奥は落盤によって塞がっている状況であり、本来ならばもっと先に空間が続いているような状況だったという。

 一体これは何なのか――。

 考古学者はもちろんのこと、一般の人々までこの謎に頭をひねった。未だにこの「大規模地下横穴」は、考古学者や一般の方たちの興味を惹きつけ続け、一年に何十もの論文が提出されている状況である。もしかすると、君たちの中にもあの大発見を受けてここに来たという者もいるかもしれない。

 今回は、この大規模横穴を巡る説を紹介しよう。しかし、未だにこの横穴は正体が分かっておらず、学会でも説が出揃うのを待っている状況である。よって、信憑性の乏しい説や、後世から見れば荒唐無稽とも取られかねない説も併せて紹介することになる。その点はご寛恕頂きたい。


 まず紹介するのが、宗教施設説である。

 地下に施設を造成するというのは、我々が想像する以上に難しい行為である。地面を掘るうちに水脈を引き当ててしまうこともあろうし、固い岩盤に突き当たってしまうこともあろう。また、落盤事故との戦いは日常茶飯事であろう。それほどの危険を人類が犯す際、宗教的な動機が後押しになっている例は枚挙にいとまがない。確かに一定の説得力がある説である(注1)。

 次に紹介するのが、往時の国家による秘密の地下通路説である。

 鉄器時代中葉、権力者たちは暗殺を恐れるあまり首都に地下通路を建設し、官邸や公邸、私邸を行き来していたという。その慣習がこの時代にも残っていて、権力者たちが地下に通路を建造したという説である。

 また、「蜘蛛の巣教」による地下建造物という説もある。

 今回発見された横穴は、ゴート市の中央を中心点として大きく湾曲している。この事実に着目し、地上に蜘蛛の巣状の金属製紐を設置するのみならず、地下にも放射線状・同心円状の通路を作り上げたのではないかとする説である。(注2)

 地上に建造されている「トロッコ様貨客乗物」が地下に設置されたものであるとする説もある。 

 男性を運搬する目的で張り巡らされていた地上のトロッコ様貨客乗物であるが、地上ではもはや敷設する土地がなく、しぶしぶ地下に設置したとする説である。確かに往時のゴート市近辺は様々な建物がひしめき合うように林立していただろうことが発掘調査からも明らかであり(1982.ゴート市「ゴート市地下遺跡発掘報告1982」)、それなりに説得力があり支持者も多い仮説である。

 この時代の遺物ではないとする「錯誤説」も提出されている。

 元々は鉄器時代の建築物だったものが堆積作用により地面に埋もれ、そのあと陶金併用時代の「硬質地層」が敷設されたために巨大地下施設のように見えている、という見解である。(注3)

 他にも戦争時防空壕説、軍事的秘密基地説、地下住居説、大規模下水道説など様々な意見が出されており、未だ学会内で共通意見が形成出来ていない。

 

 しかし、発見された巨大横穴について一つ指摘しておかねばならないことがある。

 当然、地下横穴は地下に存在する。であるからには何かしらの作業を行なうために光源が必要である。当然たいまつなどの火に依存することになるだろう。しかし、この地下遺跡からは火を使った痕跡である煤が一切検出されていない。地下施設だったとすれば極めて不自然な状況と言わざるを得ない。

 とりあえず、現況としては結論がついていないこの話題についてはここで打ち切ることにしたい。


(注1)

 現行の知識体系で説明できない遺物・遺跡が出土した際にすぐ「宗教的なモノである」と決めつけてしまうのは考古学の悪癖である。「宗教説」は様々な場面で登場する説であるが、その運用には慎重さが求められる。我々が思いもよらないだけで、宗教用途以外の実用目的が存在するかもしれないのである。


(注2)

 考古学会の定説である「蜘蛛の巣教」説をからめた魅力的な説であるが、この説に対する筆者の見解は注1で見たとおりである。


(注3)

 仮に筆者が考古学者としての見解を求められたのならば、この説を支持するものである。煤の不検出や地下建造の困難さなどの諸条件を考えた際、この「錯誤説」が一番無理のない仮説であろう。


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