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5.陶金併用時代の建築

 この時代の建築を語る際に避けて通ることが出来ないのが、白色無機質構造体と、黒色有機質構造体である。少し考古学から離れ、この建築資材について説明したい。

 白色無機質構造体とは、砂や砂利・水にツナギ材を加えて凝固させたものである。その製法については研究が進んでいてその概略は分かっているが、一方で陶金併用時代の水準の強固さは未だに確保されていない。

 一方、黒色有機質構造体についてはその製法すら分かっていない。一説にはこの時代まで人類にとって身近だった物質だったがこの時代に使いきってしまい枯渇した資源なのではないかとも言われている。白色無機質構造体と比べると柔らかいため、建築資材というよりは、地面の凹凸をならすための舗装材として用いられていたようである。(注1)

 考古学(あるいは地質学)上、白色無機質構造体と黒色有機質構造体を併せて「硬質地層」と称呼している。


 大きく分けると、陶金併用時代においては二種類の建築法が存在する。

 白色無機質構造体を最下層部に用い上部を別素材で建築を行なう「混合建築方式」と、全てを白色無機質構造体で建造しているとされる「一材料建築方式」である。

 混合建築方式において一般に使われる上部材は木材である。第一次鉄器時代における建築は木造建築が主であったことを考慮に入れるのならば、下部の白色無機質構造体が上部の木材を支えるというこの住居形式は、前時代の特徴を受け継いだ形式の住居であると言える。この形式を考古学上、「木材併用式建築物」と称呼している。また、上部材に鉄材を用い、壁を木材などで作る形式の住居も存在する。これを「鉄材併用式建築物」と称呼している。

 一材料建築方式は白色無機質構造体の中に細い鉄の棒をいくつも差し入れて構造物としての強度を確保して壁を作る建築法である。

 この混合建築方式と一材料建築方式には一定の『使い分け』があったものと考えられている。概して一材料建築方式の建物は混合建築方式と比して堅牢さを誇るため、大規模な建物に使われることが多く、混合建築方式は小規模な建築物に用いられている場合が多い。

 一般に、木材併用式建築物と鉄材併用式建築物の間に建築学的な意味での使い分けは存在しないとされているが、一方で考古学の見地からは二者の間での使い分けが確認されつつある。

 セイジョー(大量生産仮説のセイジョーとは別人)によると、丘陵部と湾岸部での二者の採用数を検討すると、丘陵部においては木材併用式建築物が、湾岸部においては鉄材併用式建築物が多いという(1965.セイジョー「丘陵部遺跡と湾岸部遺跡における建築方式」)。ただ、このセイジョーの報告は統計上のバイアスが考慮されていないなどの様々な問題点が指摘されており、この論文を援用する際には留意が必要である。しかし、セイジョーによる『建築様式地域間傾斜仮説』は他の学者により補強され、現代においてはある程度の支持を得る仮説となっている。この仮説が真だとすると『湾岸部には労働者階級が住み、丘陵部には特権階級が住む』という従来の都市環境論を補強しうる説になるためである。(注2)

 

 また、「硬質地層」を用いた治水事業を多数行なっている形跡がある。

 特に白色無機質構造体に顕著であるが、「硬質地層」は総じて浸食作用や風化に強い。そのため、治水事業と極めて相性が良い。

 どうやらこの時代、河川のほとんど、海岸線のほとんどをこの「硬質地層」で被覆し強化しているようである。その痕跡は一部とはいえ至るところに残存している。

 また、河川上流をせき止めることで人工的な湖を作るといった大事業も行われている。その方法は単純で、急峻な扇状地となっている地形を発見し、その扇状地の端から端までを白色無機質構造体で造り上げた壁を渡す。すると扇状地を流れている川がせき止められ、やがて人工湖が誕生する仕組みである。この人工湖は出水量の調節が可能であった。安定的に水を供給するのみならず大雨などの際にも被害を最小限にとどめることが出来たであろう。陶金併用時代は安定的で平和な時代だったとされているが、大規模な治水事業による農業の安定化や住居の保護も、この時代を裏支えする要素であったものと考えられている。


(注1)

 この時代の人々は地面が露出していることを嫌ったようである。特に湾岸部では黒色有機質構造体の使用が目立つ。この時代の人々が地面の露出を嫌ったのには様々な理由が指摘されているが、その根本的な理由については不明である。


(注2)

 裏を返せば、この『建築様式地域間傾斜仮説』は従来の都市環境論に引きずられて命脈を保っている、実体を伴わない説なのかもしれないとも言える。

 実際、現代においてもこの仮説への反論は根強い。特に最近では若手学者のカンセイにより、この仮説を取り巻く諸研究への統計学的な批判が展開されている(2019.「建築様式地域間傾斜仮説への統計的反論」)。

 いずれにせよ、この学説には賛否両論があり、未だ一定の評価を得た説ではないことを留意しておいた方がよいと思われる。


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