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2.陶金併用時代の社会

 陶金併用時代に支配者が存在したかどうかは分からない、というのが考古学上の暫定的結論である。王制を示唆するような広大かつ「群を抜いた」建造物が発見されていない事実が支配者階級の不在を述べる学者の論拠となっている。だが、広大な建物が存在しないわけではない。恐らく人類史上において一番巨大な建物が多数建造されていたのがこの時代であろう。だが、(後に触れるが)墓制に関しては様々な報告があり、中には第一次鉄器時代初期の大規模墳丘様式を模した擬古的な墓制も存在する。これを論拠に支配者存在説を展開する学者もおり、一概に述べることが出来ないのが実情である。

 しかし、最近の動向として、学者の多くが「支配者層共同統治説」を取っていることを説明しておきたい。王や皇帝という一個人に権力が集中しているのではなく、何千人・何万人に権力が分散されており、それら権力者たちが協力体制を敷くことで統治がなされていたとする説である。数少ないこの時代の文献史料の中に庶民が書きつけたものと考えられている覚書(1992発見「断章政府批判文書」)があるが、この中で、庶民たちが「政府」の無為無策を批判的に眺めている姿や、特権階級である「政府」構成員への蔑みと憧憬を読み解くことが出来る。文献史学の権威であるリンギは、「当時の庶民は極めて弱い立場に置かれており、政治への介入などは出来なかったものと考えられる。しかし、彼らには現行の政府に文句を言う自由はあったようである」と述べている(1993リンギ「政府批判文書にみる陶金併用時代人たちの政治意識」)。この文書の発見により、「支配者層共同統治説」は一定の支持を得るに至っている。

 この時代は女尊男卑社会であったと考えられている。

 その根拠が出土する図に描かれる男性の服飾に隠れている。この時代の成人男性の首に巻かれるスカーフである。絹や綿で作られたそのスカーフについて、図像学の見地からある指摘がなされている。鉄器時代中葉頃、男性戦士階級を所有する証に貴婦人が戦士の首にスカーフを巻く習慣があった。その習慣は当初は一地方、狭い階級での慣習であったが、時代が下るに従って全世界・全ての階級に浸透したものと思われている。男性の首に巻かれるこのスカーフはすなわち、その男性が女性の所有物だということを証拠づけるものだとされている。(注1)

 さらに、服飾学の見地からは男性の相対的な地位の低さが指摘されている。「出土する図像に見られる男性の服飾には殆ど自由がない。公の場において男性は画一的な服を着ることを要請されているようである。一方女性に関しては公の場であっても自由度が高い。服飾学上、男性に強い抑圧があったのは見逃せない点である」という指摘がある(2004,ヒンセン「男性服飾上の不自由について」)。

 また、女尊男卑社会であったとする根拠の一つにこの社会における移動手段にある。この時代における労働者は男性が多かったとされている(1978,ササモク「労働状況から見る女尊男卑社会への移行」)が、彼らが使用していたと思われる移動手段が極めて劣悪なものであったと想像されている(注2)。この時代、男性は半ば奴隷のような扱いを受けていたとも考えられている。

 また、最新研究によれば、山間・丘陵部と湾岸地域を比較した際、貧富の差、ひいては階級的な差があるのではないかという指摘もある。

 概して湾岸部住居遺構の面積は狭く、丘陵部住居遺構の面積は広い。それだけではない。往時の人々は土地を所有するという概念を保持しており、自分の土地と他の土地を区別するために柵や壁を立てるということを当り前のように行なっている。それら建物が建っていない土地まで勘案に入れれば、湾岸部と丘陵部での住宅面積は比べるべくもない。少し古いデータとなってしまうが、1998年の遺跡発掘状況からの比較によると、湾岸部の平均住居面積を1とした場合、丘陵部の平均住居面積は1.58にもなるという(1999,アシデン「住宅遺構の面積比と社会構造」)。この結果から、湾岸部には労働者階級が多く住み、丘陵部に支配者階級が居住していたのではないかという指摘がなされている。あとで述べるところではあるが、湾岸部には「蜘蛛の巣教」と仮称される宗教的集団が存在したと示唆される点もまたこの「丘陵部・支配者階級 ― 湾岸部・労働者階級」という図式を補強している。

 以上のように、『支配者階級 ― 庶民階級』という支配構造とは別次元に『女尊男卑』的な抑圧が存在した複雑な社会モデルを有しているというのが、今日の考古学における陶金併用時代の社会構造への答えである。


(注1)

 しかし、留意が必要である。『女性が自らの所有する男性にスカーフを巻く』という慣習の起こりは第一次鉄器時代中葉のことであり、陶金併用時代から数百年を隔てている。数百年前の慣習がそのままの意味づけで行なわれていると考えるのは無理があるのではないか、という見方も存在するのは事実である。詳しくは筆者の論文を参照のこと(2020,コーキョウ「文化の伝達~ミスコピーと再解釈~」)。


(注2)

 彼らが用いていたのは、「トロッコ様貨客乗物」と呼ばれる乗り物である。しかし、この乗物には座席を殆ど見出すことが出来ないにも拘らず、壁面に表示されている収容人数が多過ぎる。当時の寸法の空間を再現し収容人数をその中に入れるという実験考古学的手法を取ったところ、「手も足も動かせない、非常に劣悪な移動手段であるといえる」と実験協力者が述べるほどだったという(2018,サフジ「トロッコ様貨客乗物の再現と諸問題」)。この検証から、往時労働力の主力を為していた男性が半ば奴隷のような扱いを受けていたという事実が浮き彫りになっている。


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