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10.新史料発見に見る女尊男卑思想への疑問

 2018年、陶金併用時代末期の文献史料が発見された。この時代の文献史料はほとんど残存していない。叙事詩「ナツカシキアノヒ(訳者注:原文ママ)」以外には信用に足る文献史料は存在しなかったといっても過言ではない。当初発見された新史料の真贋まで問われる騒ぎになったが、「ナツカシキアノヒ」との言語学的比較によって二者の間に文法的・古典学的な矛盾はないとされ、新史料の有用性が確認された。「ナツカシキアノヒ」に続く、この時代の第一次史料である。

 しかし、この史料が発掘されたことにより、考古学会は激震に襲われたのである。


 この新史料には題がついている。「ジツロク・ダンチヅマミダレザキ(訳者注:原文ママ)」という。

 この史料の書き手は男性である。この史料によると男性は丘陵部に住居を構えており、妻からは毎日皮肉を言われ諸事雑事を押し付けられて迫害されている様が告白されている。しかし、ある日この男性は「ダンチ」なる場所に足を向ける。そこで知り合った「ダンチヅマ」に誘惑されるがまま男性はその「ダンチヅマ」と性交渉してしまう。しかし、「ダンチヅマ」の魅惑に勝てない男性は、何かにつけて「ダンチヅマ」のところへと通うようになり、性交渉を重ねるようになる。そして遂には家にいる妻のことが疎ましくなり首を絞めて殺してしまう。そして最後に、妻を殺してしまった悔恨と「ダンチヅマ」との性交渉のすばらしさを書き連ねて筆を置いている。

 この史料に現れている男性の心象風景は、我々考古学者が作り上げていたイメージとはかなり異なる。当初こそ女性に使役される男性像であったが、「ダンチヅマ」との出会いによって男性はむしろ女性を虐げる存在に変貌する。愉悦をもって「ダンチヅマ」を縛り上げる男性の告白には、むしろ女性を虐げる昏い楽しみに魅せられているようでもある。

 当時存在したとされる女尊男卑思想から矛盾するのではないかという指摘が出るのは当然のことと言える。

 不自然な点はそれだけではない。「ダンチヅマ」なる存在である。男性の相方を務めているからには女性であると考えるのが自然であるし、「ダンチヅマ」の女性らしさをほめたたえる文章が溢れていることも考え併せ、やはり女性であろうと思われる。しかし、この史料の中で「これが噂に聞くダンチヅマなのか」と男性が述べている。『ダンチヅマは淫乱な存在』だという共通認識が存在した可能性が指摘できよう(2019.コーキョウ「ダンチヅマなる存在の実情」)。また、初めての性交渉に至る際、男性が「報酬を用意しなくて平気なのか」旨の心配をしたと告白している。史料を読んだ様子では、「ダンチヅマ」は娼婦のような存在ではないかと考えられるのである。そして、女尊男卑社会において娼婦が存在するのかという疑問は当然検討されてしかるべきであろう。


 もちろん、反論も提出されている。

 まず、この史料には不自然な点が存在する。指摘されたところを取り上げれば、最初の性交渉までのいきさつに無理がある、このような神経質にならざるを得ない史料がなぜ存在しているのか(こういった史料が存在する必然性がない)などの問題点が指摘されており、この史料がフィクションに基づく文芸なのではないかという説も提出されている(2020.リン「ダンチヅマミダレザキの史料妥当性」)。

 そして、女尊男卑社会において娼婦が存在することは必ずしも矛盾するものではないという説も存在する。

 第一次鉄器時代において、様々な地域で娼婦制度は存在したが、中には神の代弁者として尊崇を集めた娼婦や、特権階級としか相手をしない高級娼婦も誕生した。「ダンチヅマ」も宗教的な後ろ盾をもって尊崇された娼婦であるという説がある(2020.リン「ダンチヅマ娼婦説を考える」)。その論拠として、「ダンチヅマミダレザキ」内において、男性が「ダンチヅマ」を指して「カンノンサマ」と表現していることが挙げられている(注1)(注2)。


 いまだ結論が出ていないこの論争であるが、この講において一つ指摘しておきたい。

 題である「ジツロク」という語義についてである。

 言語学の研究により、「ジツロク」という語は、「実際にあった出来事を記録した物」という意味であることが明らかになっている。つまりこの史料は、「実際にあったこと」であると明言されているのである。この点から鑑みれば、やはりこの史料は実際にあったことを書きとめた史料である蓋然性が高いと断じるべきであろう。

 そして、この史料が往時の社会を如実に映したものだと仮定すれば、我々考古学者が述べてきた「女尊男卑社会」というモデルにも大幅な見直しが必要であろう。


(注1)

 「カンノンサマ」とは、往時信仰されていた宗教における神の一柱である。かなり広範な信仰を集めていたようであり、「ジゾーサマ」という神と併せて「ボサツ」と呼ばれていたようである。なお、「ジゾーサマ」は男性の形を取り、「カンノンサマ」は女性の形を取る。ちなみに、「ジゾーサマ」と「カンノンサマ」の建立状況を女尊男卑社会にからめた研究も存在する(たとえば、1987.シン「男女神の建立状況にみる女尊男卑社会」)。


(注2)

 しかし、当史料を精読すると、男性が「カンノンサマ」と呼んでいるのは「ダンチヅマ」の女陰部であることは明らかである。そのため、「カンノンサマ」という語は符牒のように狭い範囲で通用する言葉ではないかという説もある(2020.コーバシ「新史料に含まれる符牒文化」)。


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