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1.陶金併用時代のあらまし

 陶金併用時代とうきんへいようじだいと称呼されるこの時代を語るにあたり、まずはこの「陶金併用時代」という用語の起こりから説明したい。

 考古学において時代区分を設定する際、参考にするのが往時使用されていた利器の変遷である。土器などの使用利器の製作法や形・材質などに決定的な違いが生じた場合、何らかの社会的変化(新技術の流入・旧技術の淘汰、または民族構成の変化など)が生じたと判断し、時代区分を設定するのである。

 周知の事実であるが、人類史は、石器時代、青銅器時代、鉄器時代と変遷している。この石器時代や鉄器時代という表現は、当時の人々が使っていた切断具による分類である。陶金併用時代という言葉も、この文脈の上に存在する時代区分である。

 この時代の遺跡を発掘するとナイフ様陶器が出土する。人類史において人類が陶器を切断具に用いたことはこの時代しかない(もちろん、現代も含め、である)。破損しやすく高度な製陶技術が求められるナイフ様陶器が作成される背後には、往時の社会の技術的爛熟を読み解くことも出来ようが、これは後の講に譲る。

 しかしながら、この時代の遺跡からは陶器以外の切断具も多数出土する。今までの遺跡発掘状況から考えると、彼らは陶製刃物と鉄製刃物を1:10程度の割合で用いていたようである(2000エイセン報告による)。

 さて、ここで一つ問題が生じる。エイセンの報告によれば1:10の割合でしか用いられず、支配的な切断具となっていないにも拘らず、この時代を「陶器時代」と称呼してよいのかという問題である。

 ここでは先学の考古学者たちによる論争の歴史には深く踏み込まない。しかし、この時代の研究においてまず問題となったのが、「陶器時代」称呼問題であったという点を指摘しておきたい。そして、初学者の皆にあっては、この論争に一定の結論がついたという事実だけを押さえておいていただきたい。

 発達史観、という史観がある。

 つまるところ、人類史はどのような地域であっても大きな異変や災害が起こらない限りにおいては一定の方向に収斂(しゅうれん)しながら進歩する、という学説である。

 ――と述べただけではよく分からないかもしれない。この学説の言わんとするところを考古学に当てはめるとするなら、「人類は常に、石器時代→青銅器時代→鉄器時代という時代の変遷を経る」とでもなろう。もちろんこれは地域によってはバラツキがあるようである。ある地域では石器時代のすぐ後に鉄器時代に突入した地域もあるという報告もある(1987ムハマド「発達史観への疑問」)が、その道具の作成法が単純なものから人類に発見され、やがて全世界に拡散してゆくというのがこの発達史観の基本的な考え方である。

 発達史観の上で陶製ナイフ(切断具としての陶器)を評価すれば、「この問題となっている時代は陶器が支配的な切断具だったとはいえないが、陶器が切断具として使われた画期的な時代でもある」という曖昧なものとなる。

 だが、考古学上、こういった曖昧な時代は他にも存在する。石器時代と青銅器時代の境目の時代である。同じ時代の遺跡や遺構から石器と青銅器が同時に出土する時代が存在するのである。技術の拡散や汎用化に時間がかかるのは当然のことであり、旧来の技術の賜物である石器と当時最新鋭の技術の産物であった青銅器が同時に出土する時代が存在するのもまた当然のことである。よって、石器と青銅器が同時に出土する過渡的な時代を考古学上特に「金石併用時代」と称呼している。

 考古学者の多くは、鉄器と陶器が同時出土するこの時代を技術の過渡的な時代と見なした。もし何事もなく時代が進展していたのなら、陶器が文明の利器(切断具)となっていただろう、という推測を元に、この時代を「鉄器から陶器へと切断具が移り変わっていく過渡的な時代」と評価したのである。

 そのため、「陶(器と)金(属器が)併用(される)時代」ということで、「陶金併用時代」という称呼が定まったのである。

 陶金併用時代は現在、第一次鉄器時代と第二次青銅器時代の間に置かれた考古学的時代区分である。


 また、この時代の特徴として、地質学者言うところの「硬質地層」が存在するのも大きな特徴である。この地層は一般の堆積や火山の降灰によって形成される地層とは異なり、往時の人類が人類の所産として作り上げた人工的な地層であると言われている。往時の人類は無機質構造体や有機質構造体と称呼される物質を地面の上に敷き詰めて文明を形作っている。そのため、発掘の際に地層の検出もしやすく、その結果考古学分野において研究者の多い人気の時代であるという事実も否めないところである。

 しかし、最近の研究によると、陶金併用時代の指標的地層とされてきた硬質地層について地域間の格差やバラツキがあることが分かり始めている。ある遺跡において硬質地層が存在しないからといって陶金併用時代ではない、とは必ずしも言えない点は留意しておいて頂きたい。

 とにかく、「(切断具としての)陶器が出土する」、「硬質地層が検出できる(場合が多い)」考古学的時代を陶金併用時代として現代の学者は研究を進めているのが実情である。この時代の諸相については、次講以後に譲るものである。


 そして、与えられた時間の関係上、どうしても概略的な説明に終始してしまうかもしれない。その点はご容赦いただきたい。


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