49話 【符号】
フェルナンの報告にあった村娘ソフィアの没年齢は十五歳。
確かにくまと年齢的には合致する。
「ソフィアの容姿は?」
「残念ながら容姿に関しての記述はございませんでした。ただ、十五にしては体格が小さかったとあります」
「…他に該当者は?」
「百年の間に不慮の死、病死問わず記録をひっくり返しましたが、十代で亡くなったのはソフィアだけです。もう少し年嵩ですと二十四から三十の間に五人、十歳未満では八人。これは使用人の子でございますね。二人が不慮の事故で死亡、後はいずれも病死となっていました」
「…少ないな?」
百年の間に十三人。その多くが子供なのは病に弱い為だろう。しかし、それにしても若い娘が少ない。死亡例が少ないのは良い事なのだろうが、何となく腑に落ちずエディアルドは疑問を率直に口にする。その疑問にフェルナンは苦笑を浮かべて居た。
「殿下。余程の事が無い限り、年頃の娘は嫁に行くものです。十代後半から二十代の娘は結婚を機に城勤めから退職しております。さすがに三十を過ぎますと殿下の仰る容姿とは合致いたしませんし」
「なるほど…」
納得しながらエディアルドはふと、いつも傍に控えているニナへと視線を移した。特に意識しての事ではなかったが、何が気になったのかバレバレだったらしく、無言の笑顔を返された。
睨まれるよりも怖い気がするのは何故だろうか。
話を戻そう。
つまりはソフィア以外に該当する人物は居なかったという事で、だとしたらどうして今なのか、とエディアルドの疑問は深まる。
仮にあれがソフィアだとしても、記憶が無いのは何故なのか。
幽霊として現れるにしても、恨み辛みの強い死亡当時の方が納得出来る。
それに、話に聞く限りソフィアの死に纏わる出来事は非常に凄惨だ。
記憶が無くなったとしても、あそこまで能天気な性格になれるものだろうか。――いや、無いからこその能天気なのか?と、エディアルドの思考は益体も無い事にずれて行く。
まだ、ソフィアであると決まった訳ではないが、その可能性が高いと言うだけだ。
ここに少女が居たなら、きっと自分の正体に驚いたり困ったり落ち込んだりしていただろう。もしかしたら記憶を取り戻す糸口が掴めたのかもしれない。
けれど、どれも仮定の話だ。
ぬいぐるみは動かない。
半透明の白い少女の姿も無い。
消えたのか、そうでないのか誰にも判らない。
もし、本当に消えてしまっていたのなら。
少女の身元をはっきりさせる事は手向けになるだろうか。
誰もが知り得るように詳しく記録に残したとしたら、『少女が此処に居た証明』となり、『誰かに少女を知り、存在したと判って貰う』という願いを叶えてやれるのではないだろうか。
自己満足でしかないと判っていても、エディアルドはそうしてやりたかった。
「…当時の記録はそれだけか?」
できれば惨たらしい扱いや結末だけではなく、ソフィアと親しかった村人の名やたった一人の肉親であった兄の消息なども判るといい。
百年も前では探すのは非常に困難だろうが、平穏であった頃の記録も有った方がいい。
そう思って尋ねたエディアルドに、フェルナンは一冊の簡単に綴じられた本を差し出した。
表紙は黄ばみ、色褪せ、最近のものではないと判る。
「…これは?」
「当時の国境に派遣されていた指揮官が、ソフィアの身の回りの物を持たせたとお話ししました。これはその中にあったものです。日記のように見えましたので、何か手掛かりにでもなればと」
受け取ったエディアルドは、ゆっくりと頁を捲っていく。ぱらり、ぱらり、と読んで行くと、確かに日記のようだが、どうにも若い娘の書く内容とは違う様な気がする。むしろ、研究者の書く何かの記録の様だ。そして、所々に見慣れない文字が混ざっている。
「…フェルナン。この内容、全て読んでみたか?」
「一応は。そういえば、よく変った模様が書き込まれていましたね。文体も女性の物にしては固いように思いましたが」
「模様?…お前にはこれが模様に見えるのか?」
フェルナンに見えるように本をテーブルの上に広げ問題の個所を指差すと、興味を引かれたようにニナとマティアスも覗き込んで来た。
それを見たニナは目を瞠る。
「エディアルド様!これは…!」
「模様にも見えない事は無いですが…これは文字ではありませんか?」
冷静に分析するマティアスに、ニナは「そんな呑気にしている場合じゃございません」と叫ぶ。
驚いたのはマティアスばかりではなく、エディアルドとフェルナンもだ。
「この文字は…!あの黒い魔法陣に使われている文字と同じものです!!」
ニナの叫んだ内容に、全員が言葉を失った。
次からエドががんばる!
…たぶん。




