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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
44/81

43話 【どうしましょう?】

エド、ピーンチ!

風が吹いただけで倒れる王子だしね!

 突然襲って来た力の抜け落ちるような感覚に耐え切れず、エディアルドの膝が崩れた。

 くま(少女)とニナの叫び声が聞こえた気がする。

 エディアルドは薄れて行く意識の隅でそう思った。何が起きたのか理解出来ないまま、視界が白く弾け暗転した。エディアルドが覚えているのはそれだけだった。


 異変が起きた直後、ウィルフレッドは倒れ込もうとしているエディアルドとぬいぐるみを抱え上げ、出現した魔法陣から引き離した。

 黒い文字で描かれた魔法陣の外端に、エディアルドの足が踏み込んでいたのだ。衝撃を受けたように硬直した後、エディアルドはくず折れた。ウィルフレッドには何の影響も無いのに、だ。

 急いで離れなければ、とそのまま走り、魔法陣から充分離れた位置まで下がる。振り返ると浮かび上がった黒い魔法陣は拡大する様子は無く、ウィルフレッドはそこでようやくエディアルドを地面へと下ろした。


「殿下!?おい、エドッ!?」

「エディアルド様!?」


 固く閉じられた瞼。意識は無く、蒼白を通り越して全く血の気の感じられない顔色にぞっとする。慌てて鼓動を確かめれば、聴こえる筈の音が届かない。呼吸も今にも止まりそうに細い。


「冗談じゃねえッ!ニナ、魔石!全部ぶち込め!薬も!」

「はいっ」


 エディアルドの病の大本は体内の魔力の減少だ。枯渇すれば命の危機に直結する。そして今現在、エディアルドの魔力はウィルフレッドに全く感じ取れないくらいに無い(・・)。空っぽだ。

 ニナは応急処置用に魔力回復薬と回復用魔道具を持ち歩いている。それでもエディアルドにとって回復量は微々たるもので、本当に応急にしかならない。


「薬は無理!意識がないせいか飲みこんで下さらないわ!」

「走れ!爺さんと魔力有り余ってるヤツ引っ張って来い!石の予備も!」

「わ、判ったわ!」


 直接エディアルドに自身の魔力を注ぎ込みながら、ウィルフレッドはニナに応援を呼びに行かせた。

 この状態のエディアルドを部屋まで運んでいては手遅れになる可能性が高いし、おそらくウィルフレッド一人の魔力では限界まで注いでも足りないと判断した為だ。


「まったく、手の掛かる王子サマだ!ほら、エド!目を醒ませよッ!」


 胸に当てたままの掌が、とくり、と小さな動きを感じる。酷く弱くなっていた鼓動がようやく感じ取れるようになって、ウィルフレッドの表情が安堵を浮かべる。


「よしよし、ほら、起きろよエド。目を、開けろッ」

『……エド…?』


 くま(少女)が小さな声を上げた事で、ウィルフレッドはそれまでその存在を忘れていた事に気付いた。はっきり言って、それどころでは無かったからだ。


『エド、死んじゃうの…?』

「縁起でもねえ事言ってんじゃねえよ…っ!」


 怒鳴り付けた途端、ゆらりとウィルフレッドの視界が揺れた。

 加減せずにエディアルドに魔力を注いでいるせいで、どうやら限界に近付いたらしい。頭を振って声の主を見れば、地面にへたり込んだまま俯いている。


『ごめんね、アタシのせい…ごめんねぇ…』


 きっと、涙が零せたなら、ぽろぽろと止め処なく零しているだろうと思える程、くま(少女)の声は悲痛だった。


「…お前は止めようとしただろう。エドがうっかりアレに踏み込んだのはお前のせいじゃねえよ。泣くな」

『でも、アタシがエドにお願いしてなかったら、こ――』

「ああ、もう!なかったらとかな!下らねえこと言ってるんじゃねえよ!」


 こんなことにはならなかった、と言いかけたくま(少女)の言葉はウィルフレッドによって乱暴に遮られる。びくっと震えたくま(少女)を見て、ウィルフレッドはまるで小さな子供に怒鳴ってしまったようだとばつの悪い思いをし、はあ、と溜息を一つ落としガシガシと頭を掻く。


「いくらお前がお願いしたところで、エドに聞く気が無かったらそこで終わってんだよ。お前は頼んだだけ。決めたのはエドだ。だからその事でお前が気に病む事なんざ、何にもねえんだよ。それよりも、アレは何だ?」


 ウィルフレッドの視線は未だに消えない黒い魔法陣に向けられる。

 くま(少女)はふるふると器用に首を横に振った。


『わかんない。でも、こわいの。イヤなの。あそこはイヤ。アレは…アレは―――』


 ――アレハ、ナニ?


「判らんなら、まあ、いい…」

『…だいじょうぶ?』

「あー…まあ、な」


 ちっとも大丈夫じゃなさそうにウィルフレッドが力無く笑う。


『エドに、何かあげてる?』

「魔力って言って幽霊に言って解るもんかね?」

『魔力…なんかマティアスが言ってた』

「へえ…ま、今のエドにはそれが足りないからな。補ってやらんと動かすことも出来ないんだよ」

『動くための、ちから?』

「そんなもんだ」


 首を傾げるくま(少女)に答えながら、何を律義に説明してるのかね、俺は、とウィルフレッドは苦笑する。本当に小さな子供を相手にしているようだ、とも思う。

 座り込んでいた地面から立ち上がり、くま(少女)はとことことエディアルドの傍らに立つと徐にその手を翳した。


「おい?」

『あげる』

「は?」


 くま(少女)は瞼を閉じたままのエディアルドを見つめる。

 未だに血の気の戻らない、青白い顔。

 動くためのちから。

 この身体(くま)を動かしている、アタシのちから。エディアルドに足りないのがそれ(・・)だと言うのなら。

 気合いでお茶が飲めた。

 布も、ぬいぐるみも気合いで動かす事が出来た。

 だから、きっとなんとかなる。


『ぜんぶ、あげる』


 動くための力を。


 ふわり、と。

 ウィルフレッドの頬を暖かな風が撫でて、消えた。


心肺蘇生とか…ねえ?

魔法のある世界で心臓マッサージってするのかいな?とか疑問に思ったり。


ウィルの言葉遣いが崩れてるのは素に戻ってるからです。

もとから崩れてたけどねっ!


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