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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
42/81

41話 【お散歩です。】

最後にちょろっとおまけを書いてみたんですが。

こういう小話って番外として別に書いた方がいいんでしょうかね?

 白い雲。青い空。燦々と降り注ぐ陽の光。

 本日は晴天なり。

 だが、しかし―――。


「…寒い…っ」


 裏地に毛皮を張ったコート、帽子、手袋、ブーツ、そしてストールで身を固めているにも拘らず、外気に触れた瞬間に身を竦めたエディアルドだった。


「あーまあ、そりゃ寒いよ。そういう季節だしな」

「大丈夫でございますか?御部屋に御戻りになられますか?」


 過保護と言う言葉では足りないくらい徹底して外界から守られ、ここ数年、極端な暑さ寒さを経験する事の無かったエディアルドにはこの外気温は辛かろうと、ウィルフレッドとニナは苦笑を浮かべる。

 出来ればこのまま部屋に戻って欲しかったが、自身が納得しない限り諦めないエディアルドの性格をよく知っているだけに、大人しく戻ってはくれないと二人とも解っているのだ。


『エド、寒いんだ…――はっ!?ここはもしかしてアタシの出番!?』


 一歩外に出た途端、寒さの為に緊張したエディアルドの腕の中で、何を思いついたのかくま(少女)はぶつぶつ呟いて腕を振り上げた。


『うりゃ!』

「…何をしている、くま」

『湯たんぽの本領を発揮しようと思って!気合いを入れてみました!』


 ふん!と、何故か腰に手を当て得意気に胸を張るくま(少女)


「どれどれ…お?確かに温いな」

「…そうか?」


 素手でぬいぐるみに触れたウィルフレッドが感心したように頷いているが、生憎とエディアルドにはあまり温かくは感じられないので納得出来ず首を傾げる。


『がぁ~ん!アタシ、役に立ってない~!?』


 しょんぼりと項垂れるくま(少女)を見てウィルフレッドは吹き出し、思わずぽんぽんとぬいぐるみの頭を叩いて慰めてしまった。


「殿下の恰好じゃお前さんの温みが伝わりにくいんだよ。殿下、ほら」

「む?」

『はにゃっ!?』


 ウィルフレッドはくま(少女)を掴み上げ、もふっとエディアルドの頬へ押し付けた。これでもかと防寒しているエディアルドの身体の中で、素肌が露出している場所が顔しかなかったのだ。

 ほかほかとしたぬいぐるみにエディアルドはほっと息を吐く。


「…温かいな」

「だからって顔に張り付けて歩く訳にもいかないでしょうが…気にしないんでしたら、いっそストールの代わりに首に巻いてたらどうです?」

「背中に張り付けても温かいとは思いますが、…些か見た目が…」


 首や背中にくまのぬいぐるみを張り付け歩く、成人した男―――。

 なかなかに目に痛いかもしれない。

 人目を気にする性質なら寒さに耐える方がマシだと却下したかもしれない。だが、エディアルドが優先するのは、目的の次に己の体調管理である。


「くま。背中へ廻れ。両手を首の横に置いてな」

『わ~い、おんぶっ』


 そしてくま(少女)はどこまでもくま(少女)であった。

 遠慮など欠片もなく、嬉々としてエディアルドの首にしがみ付く。ウィルフレッドはぬいぐるみが落ちないよう、一旦外したストールをぬいぐるみの上から再び巻き付ける。


『あったかい?ね、エド、あったかい?』

「ああ」


 肌に感じる寒さが和らぎ、エディアルドは目的の場所へと向けて足を進めた。

 件の『木』は城の敷地の北西、あまり人気のない庭の中に在る。

 訳の解らない病の身となる前、其処はエディアルドのお気に入りの場所だった。

 特に美しいという訳ではない。凝った造りでもなく、何か特色がある訳でもない。小さな東屋と疎らに植えられた樹木、起伏の少ない芝生だけの面白みの無い庭。

 だからこそ滅多に人が訪れず、静かに本を読みたい時や独りで鍛錬をしたい時、幼馴染達と内緒の相談をするのに打って付けの場所だったのだ。

 あの日も、エディアルドは本を読む為に庭に居た。

 春になれば白い花を咲かせる木でありながら、植えられてから一度もその花を咲かせることがなく、それでいて枯れる様子も見せない『へそ曲がりな木』。他の木に比べ育ちが悪く、何度も植え変えようという話があったらしいが、葉は元気なのだしもう少し様子を見ようと先延ばしにした結果、発育不良なのに樹齢100年を超えたとか。こうなると引っこ抜いてしまうのも忍びなく、特に景観を損ねる訳でもないのでこのままにしておこう、という結論に落ち着いたらしい。

 そんな話を庭師から聞き、本を読むのに丁度よく葉を広げた『木』を見上げた時だった。

 足元の地面が無くなったかのような感覚に襲われた。

 ぽっかりと空いた落とし穴に為す術も無く落ち込むような、全身の力が抜けていくようなざわりとした気持ちの悪さにとても立っていられなかった。

 あの時も『寒い』と思った。

 全身が一気に凍えるような感覚。同時に狭まる視界。そして、暗転。

 何が起こったのか理解する前に、エディアルドの意識は閉じられていた。


 自分の身に起こった訳の解らない状態を何とかしようと足掻いていた頃も、何度かこの庭には訪れた。そしてその度に人事不省に陥った訳だが。

 てくてくと、急ぐでもなくゆっくりと歩く。

 傍から見たら天気がいいので散歩をしているように見えるだろう。

 それでエディアルドで無ければ。


『あ…!』


 エディアルドの肩越しに周囲を見回していたくま(少女)が見知った場所に声を上げた。

 すっかりと葉が落ちて、まるで立ち枯れているかのような樹木。色の褪せた芝生。組み木で造られた東屋。数年ぶりに訪れた庭は大きな変化は見られず、冬の佇まいで其処に在った。

 そして庭の中央には一本の大きな『木』。


『エド、あの木だよ!』


 くま(少女)の言葉にエディアルドは頷く。

 視線の先には葉を全て落とし静かに佇む、何の変哲も無い、冬の寒さに沈黙する大きな『木』。


 ――此処が、始まりの場所(・・・・・・)――。


おまけ


「意外でした」


 エディアルドの背を眺めながらニナがぽつりと零す。隣で同じようにエディアルドの背を見守るウィルがその声に反応する。視線は動かさない。


「何が?」

「貴方は随分とあのぬいぐるみを警戒していたようですから…まさか、自分から進んでエディアルド様に近付けるとは思いませんでした」

「あー。だって、アレ湯たんぽ認識だし」

「は?」

「殿下が風邪引かないならいいんじゃない?」


 何でもない事のように告げられ、ニナは呆れて隣に居た幼馴染の顔を見上げる。


「そういう問題ではないと思うのですが?」

「んー。まあ、あの中身の言動聞いてるとねえ…なんか、毒気を抜かれるっていうか?」

「ああ…それはそうかも…」


 今までのくま(少女)の言動をエディアルドの傍で見て来たニナは、納得したように頷いた。


「だからって全部信用してる訳じゃないけどね。一応それなりに警戒はしてますよ?」

「そうでしょうか?」

「えー。信用ないなあ」

「日頃の行いです」

「ま、それは置いておいて。俺が口煩く言ったって、殿下があの調子で自分から傍に置いちゃうんだから言ってもしょうがなくない?」

「…それもそうですわね…」


 どうもエディアルドは、あの正体不明なくま(少女)を被保護者と認定しているようだ。まるで幼子を甘やかすかのように抱き上げたり撫でたり―――。

 そこまで考えて、あれ?っとニナは首を傾げる。


「おかしくは…ないのかしら?」


 アレはぬいぐるみである。

 抱き上げたり、撫でたりするものである。だからエディアルドの行動はおかしくない。おかしくない、筈だ。


「あれ???」

「…何を考えてんだ、何を…」


 ひとり首を傾げているニナを、訝しげに幼馴染の青年が見下ろしていた。



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