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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
32/81

31話 【魔道具って難しそうです。】

気がついたら目茶苦茶間が空いてました…。

遅くなって申し訳ありません。

「要するにですね。彼女が消えかけているという事を前提とします。存在する魔力が波長の似通った…と言うか、ほぼ同質の殿下にしか見えないくらい弱まっていると想定して。狭い範囲内で多少なりとも魔力の増幅、固定をして、全方向に対して魔力を反射させてはどうかと思ったんですよ」


 マティアスの説明に、エディアルドはふと首を傾げる。


「…くまに着けた石がそうか?だが、何故それだけではうまくいかなかったのだ?」

「もしかして、とは思ったんですがねえ。最初に殿下しか彼女が認識できないと伺った時点で、これは彼女の魔力の放出が一方通行になっているのではないかと」

「つまり?」

「どういった現象なのか私にも解りかねますが。彼女の存在を支えている魔力…思念と言ってもいいでしょうか。それが殿下に近過ぎて半ば取り込まれていると言うか…まあ、とにかく殿下の魔力に紛れてあやふやになっているものを、その指輪で収束させ外に向けて反射・拡散させてみた訳です」


 エディアルドは自身の指に嵌めた指輪を翳して眺めてみる。特に何かが出ているという感じはない。何の変哲もない、ただの装飾品のように見える。しかし、傍に就いているニナには、魔道具を身に着けるに当たり気に懸かることがあった。他でもない、エディアルドの身の安全である。


「神官殿。それは殿下の御身体に害のあるものではないでしょうね?」

「ニナ殿。どうぞ、マティアスと。…普通、身に着ける前にそれを気にするものなのですが、殿下は思い切りが良くていらっしゃる」


 ニナの疑問に「尤もだ」と頷き、マティアスは苦笑を浮かべてエディアルドへと視線を移した。そこに僅かな呆れを感じ取り、エディアルドは眼を細める。


「褒められている気がしないな」

「褒めておりませんから。殿下の病については存じ上げておりますので、悪化を招くようなものは差し上げませんよ。指輪自体はただの媒体ですから魔力を使いません。要は中継点ですね。殿下に向けられた彼女の魔力を収束して調整し、外へ拡散させるだけのものです」

「…よくこんな小さなもので作れたな…」

「本当ですよねえ。我ながらよく作れたものです」


 王子であるエディアルドに阿る事無く、マティアスは説明を続ける。エディアルドも気にすることはない。むしろ、理論を考え短時間で小さな魔道具を作成するマティアスに感心する。

 そしてエディアルドの言葉に、マティアスは他人事のようにうんうんと頷いていた。これにはエディアルドも苦笑を返すしかない。


「おい…。まあ、いい。とにかく、これでくまの声が私以外にも聴こえるようになったわけだ。一々通訳しなくても済むのはありがたいな」

『よかったね~』

「…他人事のように…。あとは調査の報告を待って、それからかな」


 ぬいぐるみに憑いた少女は、魔道具を着けたことでエディアルド以外と話が出来るようになったことに喜んでいたが、その事をエディアルド自身も喜んでいるようなので嬉しかった。

 声の調子からうきうきしている事が判るので、本当に能天気なくまだとエディアルドは呆れるしかなかったのだが。

 そこへ本日も元気いっぱいのシャーロットが飛び込んで来た。


「お兄様~!」


 ノックはあったものの、許可の応えを待たず扉を開けて入って来るシャーロットにニナは眉を顰める。実の処、突然の訪問は控えて貰いたいのだが、王女であるシャーロットに言うことは出来ない。エディアルドが臥せっているなら別なのだが、本日のエディアルドは全快とはいかないまでも、体調がある程度回復してきているので命がなければ口を出す事が出来ないのだ。


「…シャロン、またか。お前、勉強はどうした?まさか抜け出してきたのか?」

「もちろんですわ!だって昨夜から気になって気になって仕方なかったんですもの!勉強なんか頭に入りませんわよ!夜も眠れなかったくらいですのよ!」


 感心しない行動を堂々と、胸を張り答えるシャーロットに周囲は揃って溜息を零した。


「お前は…いつも無駄に元気だな…」

「お褒め頂き光栄ですわ!」

「褒めてない」


 苦々しく、窘めるように言うエディアルドの言葉など聞こえない様に、シャーロットはきょろきょろと部屋の中を見回す。


「それでくまの精霊様は居らっしゃいますの?せっかくですから可愛らしくしていただこうと思ってリボンを御持ちしましたの!気に入ってくださるかしら!?」


 言われてみればシャーロットの手には木の箱がある。花とつる草の細やかな彫刻が施されたそれは、彼女のお気に入りのリボンや装飾品や大事なものを仕舞っておく宝石箱だった。

 目敏くエディアルドの寝台に座っているくまを見つけると、シャーロットはいそいそと自分も寝台に腰かけ箱の中身を広げた。中からはサテンやベルベット、レースの色とりどりのリボンが零れ落ちる。鮮やかなそれらは、とても綺麗なものとしてくまに憑いた少女の目に映った。


「白もいいですけど赤も似合いますわよね。レースだと可愛さ倍増ですわ~」

『きれい~可愛いね~』

「…あら?」

「…」

『うん?』


 両手にリボンを持ちぬいぐるみに合わせようとしていたシャーロットは、聞き慣れない声にきょろきょろと室内を見回す。

 ニナは口を閉じ視線をぬいぐるみに向けているし、彼女の声ではないのはシャーロットにも判る。しかし、部屋の中にはシャーロットとニナしか女性はいない。

 シャーロットは首を傾げ、部屋の主である兄に問いかけてみることにした。


「お兄様。知らない女の子の声がしますわ」

「…それだ」

「それ?」

「お前の目の前に居るだろう。そのくまの声だ」

「え!?」


 驚きに眼を瞠り、凝視してくるシャーロットに、くまに憑いた少女は居心地悪くぺこりとお辞儀をした。


『…あの。こんにちは』

「まあ!驚きましたわ!何てことでしょう!精霊様と御話し出来るなんて、素晴らしいですわ!!あら、でも、昨日は御話しできませんでしたのにどういうことなんでしょう?」

「マティアスがくまと話ができる魔道具を作ってくれたんだ。首の…その黒い石だ」

「そうでしたの!すごいですわ、マティアス様!…でも、ちょっと石だけではあまり可愛らしくありませんわね…」

「道具に可愛さは要らんと思うぞ…」


 すごいと褒めながら、シャーロットは石の武骨さにむむ、と眉を顰めた。何に着け可愛さ重視の妹にエディアルドは無駄と知りつつ口を挟む。しかし、それはシャーロットの耳には届かなかったらしい。


「マティアス様、この石首飾りになっておりますけれど、鎖も必要ですの?」

「いいえ。媒体はその石だけですよ。ただ身に着けるには鎖とか紐が必要でしょう?」

「でしたらこの石がそのままでしたら鎖は変えてしまっても構いません?」

「それは構いませんが」

「ちょっと失礼しますわ!」


 言ったかと思うとシャーロットは開いた宝石箱をそのままに部屋の外へと駆け出して行った。


『行っちゃった…』

「まったく…つむじ風のようなヤツだな」

「シャーロット様付きの方々の苦労が目に見えるようです…」

「御兄妹の中でもとりわけ溌剌とした方ですねえ」

「そこが悩みの種なんだ…アレでもいつかは淑やかになるんだろうか…」

「「…」」


 そればかりは誰も判らない、と室内に沈黙が降りた。


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