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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
23/81

22話 【揺れる存在】

 自分が自分であると自覚してから、映ろう景色をずっと眺めてきた。

 自分とは違う、確かな肉体を持ち存在する生命達。

 小さなもの、大きなもの、動かないもの、動き回るもの、ゆっくりと形を変えるもの、みるみると形を変えるもの。

 とりわけ目を引いたのは人間、と呼ばれるいきもの。

 頼りなく小さく生まれ、表情豊かに笑い、怒り、悲しむ。

 興味を惹かれ近付けば、笑っている時は温かな何かに満たされ、怒りに震える時は不快な何かが襲う。

 新しい命が産まれたと言っては嬉しいと喜び、何かあると楽しいと笑う。そんな時の彼らの傍は心地よくてふわふわと周囲を漂った。

 誰かが動かなくなってしまった時、にたくさんの人が俯いていると何とも言えない空気が渦巻き、好んで近付きたいとは思わなかった。それが悲しみの感情だと、長い時間をかけて知った。

 そうして集まった人間たちの中に、動かなくなったヒトと同じ顔を見つけることがあった。

 俯いているヒト達の誰にも気付かれることなく、彼等を撫でたり抱きしめたりしながらやがて光の中へと消えていく存在。時々、それ・・が視えるヒトが居て、その言葉を拾い集め『幽霊』という存在だと知った。

 では、自分は?

 誰からも見えず、何かに触れる事も出来ず、話す事も出来ない。

 知りたい、と初めて思った。

 それからはふらふらとあちらこちらへ彷徨い、漂い、聴こえるもの、目に映るものを拾い、繋ぎ合せ。

 やがて、明るいということ、暗いということ、昼と夜は交互に繰り返し、昼の光は太陽、夜の光は月と呼ぶことを知った。そして、生きているものはいずれ動かなくなり、それを『死』と呼ぶのだと解った。

 身体を持ち生きているヒトに比べ薄い存在。

 ある夜、月の光に照らされ鏡に映ったモノが自分であると判った時、「ああ、自分はあれと同じなんだ」と思った。その薄く透けた姿は今まで目にした『幽霊』と呼ばれるもの達と一緒だったから。

 なのに。

 どうやら自分は『幽霊』ですらないらしい。

 ヒトと同じ形をしているのに、ヒトの気配がないってどういうことなんだろう。


 思考の渦にぐるぐると巻かれているぬいぐるみのくまを眺めながら、エディアルドも神官が言った言葉の意味を考えていた。これで神官が「何の気配も感じられない」と言ったなら、ぬいぐるみが動く事実は横に置いて自分の気のせいであるのだと思うことも出来た。しかし、神官は霊ではないが何か・・が在ると感じ取れると言う。

 その何か・・が何であるにせよ、此処に確かに在るならば無視することもしたくはない。


「…くま。訊いておいて何だが、考えても答えの出ない事は考えなくていい。調査してみない事には、此処でいくら何を言ったところで、ただの推論にしかならん。悩むだけ無駄だ」

『…』

「殿下…それはちょっと暴論では…」


 くまは蹲ったまま動かず、何故かそのくまを不審物扱いして警戒していたウィルが口を挟んできた。てっきりニナと同様、祓うなり遠ざけるなり排除の方向で動くと思っていたのに、どういう訳か態度が軟化している。意外だとウィルへと視線を向け、エディアルドは呆れたように続ける。


「正論だろう。此処でこいつの正体を想像したところで意味は無い。とにかくまずは調査をしてもらおう。結果が出次第報告を」

「はい。直ぐに開始したいと思いますので私はこれにて失礼いたします」


 エディアルドが頷くと管理官は足早に退室して行った。過去10年分という、その膨大な調査量を思って、ウィルは気の毒そうな表情で彼を見送った。


「あ…」


 扉が閉じた後で、エディアルドが何かを思い出したようにぽつりと声を上げた。


「いかがなさいました?」

「…あいつの名前聞くの忘れた」

「「……」」

「…内務人事管理担当官室長フェルナン・モルデラート殿ですよ」

「長い役職名だな…」

「まあ…そうですね」


 つまり城の人事を管理する部署なのだが、人事を担当するだけあって雇う対象の調査や配置など、仕事量が多い為に管理官もかなりの数に上る。今回はエディアルドが呼んだ為にわざわざ室長自らが出張って来たらしい。

 病を発症して以来数年、政務に関わることの無かったエディアルドは組織の細部までは覚えていない。覚える必要も無いと、敢えて触れることもしなかった。けれど、面倒を押し付ける事になった人の事くらいは覚えておくようにしようと、エディアルドはこれから忙しく働かねばならない管理官の名前を記憶に留めた。


がんばれ、おじさん。

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