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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
21/81

20話 【忘れていたわけではありません。】

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「で、触るなと言い置いたのにも拘らず、安全かどうか確かめもしない内に繕わせた挙句、洗濯に出してしまったと。…お前さんの危機感は随分と軽いな?」

「…言い訳は致しません」

「言い訳は要らないが、状況の説明くらいはしてもらおうか」


 ウィルが王への報告を終え部屋に戻ると、不審物の監視を言い付けた兵が所在無さ気に立っていた。

 どうしたのかと思えば肝心の不審物ぬいぐるみのくまが見当たらない。視線で問えば兵達の顔が困惑を浮かべニナへと向けられる。そのニナはと言えば、解熱剤の効果か幾分楽になった様子のエディアルドを、寝台の上で楽な姿勢になるようクッションに凭れ掛けさせていた。ぬいぐるみはどうしたと問えば冒頭の答えが返り、ウィルは普段のニナらしくない行動を訝しみ、同時に軽くは無い憤りを覚える。それは不審と解っていながら軽々しく扱ったニナに対してか、止めなかった兵達にか、部屋に置いたままにした自分に対してか、或いはその全てであったかもしれない。

 性格故か、何事にも飄々とした態度を崩さないウィルの険しい表情を、エディアルドは珍しい事もあるものだと眺めていた。けれど、原因は自分にあるのでこれ以上ニナを責めさせる訳にもいかない。


「ウィル。ニナを責めるな。頼んだのは私だ」


 口を挟むと、得たりとばかりににっこりと笑みを浮かべたウィルの視線がエディアルドへと向きを変える。経験上、笑顔であってもその目は笑っていないことは既に承知している。


「そうそう、殿下。起きたら是非とも御説明頂きたいと思っていたんですよ。何があったのか、あの不審なぬいぐるみが何なのか、はっきりきっちり吐いて頂きましょうかねぇ?」

「まあ、待て。その前にもうすぐ神官と内務管理官が来る筈だから…ああ、それとくまも洗濯が終わるんだったか?揃ってから話をしようか。同じことを繰り返すのは面倒だ」


 ただでさえ発熱のせいで怠いのである。面倒な説明は一度に済ませるに限る、とエディアルドは思う。

 エディアルドが誰かを呼び付けることは珍しく、ウィルは不思議に思って首を傾げた。


「神官と、内務管理官…ですか。何事ですか?」

「ちょっと頼みたい事が出来た」

「頼みたい事?」

「ああ。とりあえず来るまで茶でも飲んでいろ。…ニナ」


 訝しげに眉を寄せるウィルに座って待つようにソファへと促し、ニナに声をかけると心得た様子で茶の支度を始める。程無くウィルの前には温かいお茶が置かれ、エディアルドには冷たい果汁が渡される。それを見た少女が不思議そうな声で訊ねる。


『エドはお茶じゃなくていいの?』

「…今は冷たい物の方が飲みやすいんだよ。お前も要るなら茶を淹れてもらうが?」

『ううん。要らない』

「そうか」

「殿下?」

「うん?…ああ、纏めて説明するから。まったく、いっそ皆に聴こえるなら面倒がなかったものを…」

『だよねー。でも聴こえないものはしょうがないし。エドがお話ししてくれるだけでもアタシは嬉しいよ?』

「そうか」


 見えない少女と会話するエディアルドを、ウィルが眉を顰めて見る。ニナは少しだけ経験したせいか、敢えて見ない振りをする。

 そんな妙な空気の中、幾許もしないうちに呼び出した神官と内務管理官が到着し、部屋へと招き入れられる。間を置かず、ぬいぐるみの洗濯を終えたお針子が困惑した様子で戻ってきた。


「あの、申し訳ありません。やはり姫様にばれてしまいまして。このぬいぐるみをこちらに御持ちすることをお話ししましたら、付いていらっしゃいまして…どういたしましょう?」

「…いらしているのですか?」

「はい…」


 仮にも主の妹である姫君を門前払いは出来ない。

 エディアルドが調子を崩している時は、安静の為に快復するまで見舞いは控えてもらっている。しかし、今回はそういう訳にはいかないだろう。エディアルドにどうするのか伺えば軽く溜息を吐いた後、「仕方がない」と入室の許可が出た。招き入れたシャーロットは、何故か両脇にうさぎとたぬきのぬいぐるみを抱えていた。


「お兄様!お加減はいかがでしょう!?ローラから聞きましてよ!精霊様がわたくしのくまさんをこちらに遣わされたとか!精霊様ってどんな方でしたの!?やはりお美しいのでしょうか?それとも可愛らしいんですの?くまさんも可愛いんですけどよろしければうさぎさんもどうでしょう!?精霊様はくまさんとうさぎさんとタヌキでは何がお好きかしら?ねえ、お兄様、どう思いまして!?」

「…とりあえず、落ち着け、シャロン。何だ、その精霊様というのは…?」


 顔を見るなり捲し立てる妹の言っている意味がわからずエディアルドが首を傾げていると、ニナがお針子のローラと話していたことを説明する。その間シャーロットはエディアルドの寝台の横でぬいぐるみ二体を抱えたまま、きらきらとした目で答えが返ってくるのを待っている。


「精霊ねえ…?まあ、似たようなものか…?」

『精霊って何?』

「何、と改まって聞かれると…何だろうな?まあ、そこいらに散らばる力を持った目に見えない存在、かな」

『見えないの?』

「気紛れに姿を顕すこともあるそうだが。私は逢ったことは無いな」

『そっか~』

「で、シャロンが何が好みかと訊いているが、お前は何がいいんだ?」

『…え?』

「くまとうさぎとタヌキ。どれがいい?」


 どれがいいかと訊かれても。

 幽霊の少女にとって、ぬいぐるみは何気なく取り憑いてしまっただけのモノで特に好みは無い。シャロンの抱えるぬいぐるみを見れば、うさぎは耳が長く真っ白で毛足がやや長めでふわふわである。抱き心地はとても良さそうだ。タヌキは毛足が長く、特にしっぽが長くもふもふしている。間違いなくアレで動けばしっぽを引きずることになる。どちらにしても汚したら大変そうだ。そして、今までの短い経験からするともし中に入って動いた途端、また叩き付けられたり転がされたり、もしかしたら踏みつけられたりするかもしれない。

 なんとなく、視線はお針子さんの持っている茶色い毛足の短いぬいぐるみへと向かう。


『…くま?』

「そうか。シャロン、くまが良いそうだ」


 少女の選択を代弁してやるとシャーロットがきらきらとした笑顔で身を乗り出す。


「お兄様!?精霊様とお話し出来ますの!?」

「不本意ながら、な」

「すごいですわ!お兄様、わたくしもお話がしたいです!」

「出来たらして欲しいと、私も思うよ…」


 切実にそう思う。

 もし自分以外の誰かが、この少女の姿を見て声が聴こえたなら、自分がこんな面倒事を背負い込むことは無かっただろう。だが、もしも、は起こり得ない仮想だ。関わってしまった以上、出来ることはしなければ寝覚めが悪い。


「殿下、シャーロット様。御話し中申し訳ありませんが、我等にも理解できるよう御説明頂けますでしょうか?」


 興奮状態のシャーロットと苦笑を浮かべるエディアルドの会話に、笑顔を浮かべたウィルがその表情にそぐわない冷やかな声で割り込む。慣れない者が耳にしたら思わず姿勢を正し、固まってしまいそうな声だった。良くも悪くも長い付き合いのエディアルドは平然と受け流し、ニナにお針子からくまを受け取ってきてもらうと寝台の足元に置かせた。


「見た方が早いだろう。幽霊娘、くまに入れ」

『えぇー…痛くないけど、また斬られたりふっ飛ばされるのはやだなぁ…』


 嫌そうに言う少女の言葉に、エディアルドは視線をウィルに向ける。おそらく、そういう行動に出るのは間違いなく彼だったからだ。


「殿下?」

「…ふむ。ウィル。今からそこのくまが動いても剣は抜くなよ。蹴り飛ばすのも不可。むしろ黙って見ていろ」

「…承伏し兼ねます」

「いいから。幽霊娘、くまに入ったらちょっと昨夜みたいに動いてみろ」

『うん?わかったー』


 幽霊の少女はぬいぐるみのくまの中に入り込むと、周囲の視線が自分に集まるのを居心地悪く感じながらも言われたように立ち上がり、挨拶をするように片手を上げて見せた。姿は自分でも見えないのに、こうやってぬいぐるみの中に入り動かせるのは自分でも不思議だと思う。

 周囲の反応は、そんなのんびりしたものではなかったが。


「おお、動いた!」

「まあ!動きましたわ!」

「やっぱり動くんですね…」

「…」


 若干一名、無言で睨みつけているが、エディアルドは見ない振りをする。そして、神官と管理官にわざわざ部屋に呼んだ用件を口にした。


「見ての通り、このくまの中に自称『幽霊』と名乗る者が入っている。…取り憑いていると言うべきか?ああ、別段悪さをする訳じゃないから慌てずとも良い。頼みたいのはこの者の調査だな。過去に14・5歳前後で色素の薄い娘がこの城に勤めていなかったか、その生死と…死んだのならその死因、埋葬場所を探して欲しい」


 約束は、守るものだ。



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