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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
20/81

19話 【遊んでいる場合ではないのです。】

ちゃぷん、と盥の中の氷水に入れられぎゅっと絞られる。

 なんとなく自分が絞られているような妙な気分になりながら、布に取り憑いている少女は抜け出ることもせず大人しくされるが儘になっていた。微妙な表情になっているニナにびくびくしつつ、それでもエディアルドの額に載せられてほっとする。


『エド、エド、今度は痛くない?』


 少女の問い掛けに軽く頷くとエディアルドはニナを見る。


「ニナ、少しばかり独り言のように聞こえるかもしれないが、私の気が触れた訳ではないからな。一々騒ぐなよ」

「…はい」


 傍に控えたまま、ニナは頷く。理解し難い状況ではあるが主の命とあればいたしかたないのである。従えないのであれば傍仕えの資格は無い。


「…お前達にも視えるのなら話は早いんだがな。…さて、くま…ではないか。幽霊娘。何故布何ぞに入っている?」

『入れちゃったから?』

「…だから、何故?」

『えっとぉ…エドがね、冷やすと気持ち良さそうだったから冷やしてあげようかなー、なんて』

「…」

『でも、何かに入ってないとうまく出来なかったから、この布切れに入ったら出来るかなーって思って。そしたら出来たのよー』

「…つかぬ事を訊くが。布切れでも動くのか?」

『う?どうだろ?』


 言われて少女は布を動かそうとしてみる。ぐぐっと震え中央が持ち上がったが、立ち上がることは無くすぐにぺしゃりと崩れた。訊いておきながら何だが、額でもぞもぞと動かれるのはさすがに気色悪く、エディアルドは促した自分を少し後悔した。


『何かうまく動かせません!何故でしょう!?』

「知るか…」

「エディアルド様、よろしいでしょうか?」

「…何だ」

「額の布が得体のしれないモノに変わっているようです。外してもよろしゅうございますか?」

「ああ…むしろ中に入ってるやつが出るべきだろう。ということで幽霊娘。冷やさんでもいいからこれから出ろ」

『えぇー…』

「冷やすのはお前じゃなくても出来る。それよりもお前に頭の上に載られていると思う事の方が不快だ」

『う…ごめんなさい…』


 しょんぼりと項垂れているのが容易く想像出来るようながっかりした声が聞こえた。しかし、出たのかまだそのままでいるのか、明るいせいか姿が見えないので判断できない。


「どうせ入るならいっそずっとくまの中にでも居ろ。…ニナ」

「申し訳ございません。ぬいぐるみは只今洗濯中でございます。そろそろ戻って来る頃合いの筈ですが、暫しお待ちくださいませ」


 そういえば、とエディアルドは昨夜ぬいぐるみのくまを斬り付けたり廊下に押さえつけたりした事を思い出す。つまりは雑巾のようになってしまった訳かと納得し、汚れを落とすよう頼んだことも思い出した。


『エド!見て見て~!』


 声がしたので視線をそちらに向けたエディアルドは見るんじゃなかったと後悔した。エディアルドの目線につられて同じものを見てしまったニナもまた目を瞠り絶句している。

 部屋に置かれたワゴンの上、畳まれて置かれていた筈の大判のタオルがへらへらと揺れながら踊っていた。


『アタシ、解りました!端っこを手足だと思えばいいんですよ~。ちょっと厚みがないからうまく立てませんけど!』

「立たんでいい!というか、くまが戻るまで他の物に入るんじゃない!何事かと思うわ!」

『ええ!?せっかく動かせるようになったのに~』

「とにかく大人しくしておけ!…はぁ…頭痛が酷くなった気がする…」

「…大丈夫でございますか?」


 エディアルドの言う幽霊の声は聞こえない。それでも動く筈の無いタオルが動いて、エディアルドが制止した途端、何かが抜け落ちたようにへろんと力を失いただのタオルに戻ったようにニナには見えた。

 ぬいぐるみの時は気のせいかとも思ったが、何度も同じことが起こればニナとて此処に何かが居る・・・・・・・・くらいは判る。例え自分に感じることが出来なくとも主には感じ取ることができているのだろうということも納得した。

 けれど、ただでさえ調子を崩しているエディアルドの負担になっている様子なのが頂けない、とニナは顔を顰める。

 ぐったりというよりは実はうんざりしていたエディアルドは、半ば愚痴のようにニナに問いかけていた。


「大丈夫に見えるか?」

「いえ。やはり神官を呼んで参りましょう」

「…待て。ああ、いや、神官も呼んでもいいが、ウィルと内務管理官も呼んでおいてくれ」

「駄目ですよ。御身体の調子が良くなるまでは寝台から御起きになりませんように。長引かせたくはございませんでしょう?」

「解っている。調べて貰いたいことがあるだけだ」

「熱が下がってからでもよろしいのでは?」

「まあ、頼んだ後は大人しく寝ていることにする。それに、今はそんなに身体が辛いわけじゃないから大丈夫だろう」


 言ったら聞かないエディアルドの気性をよく知っているニナは、仕方がないとばかりに軽く眉を下げる。

 本当は無理をして欲しくは無いのだけれど。


「…何処にいるのか存じませんが…」


 ニナはゆっくりと部屋の中に視線を巡らす。その唇がほんの少し笑みの形を作る。


「…悪さなぞしたらありとあらゆる手段で消し去りますから…」


 にっこり、と笑って呟かれたニナの囁きをしっかりと拾っていた幽霊の少女は。


『ご、ごめんなさい~~!?』


 エディアルドの傍らでぷるぷると震えながらコクコクと首を縦に振っていた。

 誰の目にも映っていなかったけれど、泣きそうなその声だけはエディアルドに届いていた。




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