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真夜中のお茶会  作者: ねむりねこ
出会い編
13/81

12話 【アナタの名前】

「何、これ…?」


 思い切り不審な視線を向けられてくま(幽霊の少女憑依中)は吐けない溜息を吐きたくなる。

 夜に眠る時の挨拶は『おやすみなさい』だ。

 ふよふよとその辺を漂っていた時に誰かが子供に向かって「挨拶は大事だ」と言っていたのを思い出して、朝起きた時の『おはようございます』をした途端、ものすごい勢いで薙ぎ払われた。

 昨夜、青年に剣で刺された時は驚いたし初めての経験だったので恐慌状態に陥ったが、ぬいぐるみは痛みを感じないし幽霊は死なない(既に死んでいる)と解っているので流石にもう慌てたりはしない。――――しないが、やはり不審者と思われて警戒されてぞんざいに扱われれば何やら悲しい。

 試しに部屋に入ってきた女の人に向かってもう一度『おはようございます』と言ってみたが、案の定聞こえてはいなかったようだ。

 とはいえ、明るい陽射しの中では本体(?)である霊体に戻っても意味はない。何せ自分ですら見えないのだから。

 唯一話ができる青年は絶賛発熱中であり、くまは迂闊に動いてしまったことを反省する。

 もしかしたらこのまま捨てられるのかもしれない、とびくびくしていると女の人が持っていたモップの柄でつんつんとくまを突いてきた。まるっきり不審物の反応を見る行動である。間違ってはいないが。

 意思の疎通ができなければ、身の潔白を証明することすら困難だ。尤も、記憶のないくまにとっては疎通ができても難しいだろうが。

 とりあえずくまは害意は無いと示すように両手を上げてみる。

 武器はありません。何もしませんよー、と言ったつもりだったのだが、動いた途端にまた柄で突かれ転がされた。よいしょ、と懲りずに起き上がるとまた突かれる。

 起き上がって転がされを三度繰り返し、くまは起き上がることを止めた。よく考えたらくまの中に入っている必要がないことに気付いたのだ。ふよふよと漂って青年の傍に佇んでみる。青年の名前はエディアルドと言うらしい。女の人が部屋に入ってくる時に呼んでいたので少女も呼んでみる。


『エディアルド?』


 この明るい陽射しの中で姿も消えてしまっている状態で声が届くだろうか、とドキドキしていると見下ろした青年の瞼がうっすらと開かれる。

 どうやらちゃんと聴こえているらしいと判って少女は嬉しくなる。

 初めてなのだ。

 こんな風に会話できる相手が今まで誰も居なかったから、名前を呼んで答えてくれることが、こんなにも嬉しい。


「……そう、言えば。名は、伝えていなかったな…」

『エディアルド、でいいの?』

「そうだ…。エディアルド・ユース・エクタス・ソランディア…私の名だ」


 囁かれるように告げられた、長い名前。


『エディアルド・ユース…長いねー』


 少女が返すと青年はほんの少し笑ったようだった。


「…エド、でいい…」

『エド』

「そうだ」

『エド、熱いね』

「ああ…煩わしいことだな…」

「エディアルド様、御気を確かに!直ぐに医師が参りますわ!」


 エディアルドが囁くように少女と交わしていた会話をニナは熱に浮かされてのうわ言と思ったらしい。動かなくなったくまのぬいぐるみより主が大事と駆け寄ってくる。横になっていた身体を仰向けると、熱が渦を巻いているようなエディアルドの額に冷たい水で絞った布を置いた。

 ひんやりとした感触にエディアルドはほっと息を吐く。


「ニナ。くま、捨てるなよ…」


 それだけ言うと、身体中を苛む熱から逃げるようにエディアルドの意識は落ちた。



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