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第2話 第ー写(下)これは確かにあった光景だということです。

 翌日、建一が再び写真館にやってきた。


「写真、できていますよ。」

 そう言って店主は健一にソファーを勧め、店の奥から封筒に入った写真を持ってきた。

「シチュエーションから言ってあんまり大きく引き延ばす写真ではなく、かと言っていわゆるサービス判ではお父様には見づらいかなと思い、キャビネ判にしてみました。いかがでしょうか。」


 ソファーの前のテーブルに置かれた写真を見て、健一は目を見張った。

「これ、父です!」

 キャビネ判の、少し色あせたカラー写真。 

 手前には、ピントはぼけているが、後ろ姿の男の子が写っている。向こう側には健一の面影が少し感じられる、歳の頃なら四十歳前後の男性が写っている。

 左手にはグローブをはめ、満面の笑顔で右手を大きく振りかぶり、今まさに手前の男の子に向かってボールを投げようとしている。


「父はこんな嬉しそうな表情をしていたのですね。」

「子供とのキャッチボール、父親のひとつの夢かもしれませんね。お父様は嬉しかったと思いますよ。」

「それで、この写真はどうやって……」

「それはお聞きにならないで下さい。ひとつだけ言えるのは、これは確かにあった光景だということです。」

 いつもは柔和な表情の店主が、健一の目を見据えてそう言った。


「わかりました。それならば、家族には押し入れの奥から見つかったとでも言っておきます。それで、お代はいくらお支払いすればよろしいですか。」

「キャビネ判一枚ですから、二百円いただきます。」

「二百円!」

「昔は同時プリントの場合、キャビネ判では百円もいただかなかったのですが、今はプリントを頼むお客様が減り、資材の値上がりもあり、それだけいただかないといけなくなりました。」


「いえ、そうではなく、二百円でよろしいのかと思ったもので。」

「そうおっしゃられても、キャビネ判一枚ですから、それ以上いただく訳にはまいりません。それより、早くこの写真をお父様にお見せになられた方がよろしいのではありませんか。」

「はい。さっそく父に見せに行きます。」

 代金を支払い、昨日初めて訪れた時はとうって変わった明るい表情で、健一は写真館をあとにした。


「親父、俺です。来ましたよ。」

 父、裕一郎の個室に入った健一は、裕一郎にそう声をかけた。すっかり老け込んだ裕一郎は健一に一瞬目を向けたものの、その目に光はなく、何も話そうとしなかった。

「親父、わかりませんか。俺ですよ。」


 それでも無言のままの父に、健一は写真館で受け取った写真を見せた。

「こんな写真を見つけたんですよ、親父。」

 すると、今まで反応を見せなかった裕一郎の目に、みるみるうちに光が宿ってきた。


「おお、健一、よくこんな写真を取ってあったなあ。」

 裕一郎は口を開いた。それも、昔と変わらぬ張りのある声で。

「この写真、わかりますか!」

 建一は、驚きで目を見開いた。

「当たり前だ。ピンボケで後ろ姿だけど、これはお前だ。」


「最初に見るの俺なんですね。これで俺ってわかるんですか。」

「当たり前だろ。子供の後ろ姿がわからない親がいるものか。それに俺も若かったなあ。」

 心から懐かしそうに、裕一郎は言った。

「親父、嬉しそうな顔してますね。」

「そりゃもう、キャッチボール、楽しかったからな。これを撮ったの母さんか。下手な写真だなあ、お前ピンボケだもの。」


「そうかもしれませんね。残っていてよかったですよ。」

「お前と遊んでいる写真、ほとんど残っていないもんなあ。あの頃は忙しくて、あんまり相手をしてやれなくてごめんな。」

「親父……」

「何泣いているんだよ。俺がすぐ死ぬとでも思っているのか。俺はまだまだ死なないぞ。」


 泣き笑いの健一と笑顔の裕一郎の会話は、面会時間が終了するまで続いた。

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