魔王会議
神品 章生
31歳
数多くのレトロゲームの攻略動画を配信し、人気を博している
配信者名は「我が右腕に宿りし腱鞘炎」
登録者数も10万人を超える
彼はゲーム黎明期の理不尽極まりない、いわゆる「クソゲー」すらも攻略しており、彼にクリアできないゲームは無いのではないかと囁かれている
そんな彼はある日、未攻略とされている古のレトロRPGゲームの攻略に挑んでいた
「こいつが魔王か」
その名はサロマラクと言った
おそらくここまで辿り着いただけでも人類初であろう
古いゲームだけあって、ダメージ計算が明らかにおかしい
レベル最大であっても、常に高いHPを維持していないと、バグのような威力の攻撃が飛んでくる
アイテム欄は回復アイテムで埋め尽くされている
その攻防は1時間にも及んだ
そして、ついに魔王を倒した
しかし、エンディングが流れるかと思いきや、倒れた魔王サロマラクが魔法を詠唱し始める
「おいおい、第二形態があるのかよ・・・」
しかし、魔王が放ってきた魔法は章生の予想していたものではなかった
「オマエヲ ショウカンスル」
そのメッセージと共に章生の視界は暗闇に包まれた
次の瞬間、章生は巨大な円卓が置かれている場所に飛ばされた
その円卓を取り囲む形で数多くの巨大な椅子が置かれている
章生はその巨大な円卓の中央に立っていた
椅子に座っている面々が一斉に章生に視線を向ける
そこに座っていた者たちは異形の者たちだった
角を持った魔族、巨大な樹木の身体をした者、巨大な機械生物、神々しい雰囲気を持つおそらく神のような者
そのような、おおよそ魔王かそれに類するような者たちが章生を見つめていた
いや、章生はすぐに気が付いた
「ここにいる連中は、いろんなゲームのラスボスじゃないか」
そう、その場所にはかつて章生が攻略したゲームのラスボス達が集まっていた
「魔王会議へようこそ」
章生にそう語りかけてきたのは、さきほどレトロRPGゲームのラスボスだったサロマラクだ
「魔王会議?」
章生のその当然の疑問に対し、サロマラクは答える
「そうだ。我々はここに集って会議を行っている」
「なんの?」
「我々が殺されない方法を話し合っているのだ」
続けて
「お前にもこの会議に参加してもらう。そのためにお前をこの場に召喚した」
サロマラクのその言葉に続けて、周辺の魔王達が勝手に発言を始める
「俺なんて、もう何万回殺されたかわかりゃしねえ・・・」
「ああ、お前は大人気ゲームのラスボスだものな」
「俺なんてRTAで人気だから、毎日何度もいろんな奴に殺され続けているんだ・・・」
なるほど
章生はその会議の目的がわかった
つまり、こいつらは殺されなくても済む方法を話し合っているんだ
それを悟った章生は
「いや、お前達は殺されるために生み出されたんだ。だから殺されるしかないだろ。諦めろ」
「痛いのは嫌なんだよ」
そう答えたのはラミという人気RPGゲームのラスボスだ
このラスボスは人間である
他の魔王達を見ても意気消沈している
こいつら、本当に魔王なのか?
「わかった。簡単な解決策をくれてやる。勇者が目の前に現れたら降伏しろ。そうすれば死なずに済む」
「いや、駄目なんだ。降伏しようとしても勇者は問答無用で攻撃してくるんだ」
「・・・・。なるほどな。言われてみたら俺でもそうする。となると、金銭で勇者を懐柔することも難しいか・・・」
勇者は基本的に常に金欠だ
魔王を倒す武器や宿代も自腹で払っているブラックな仕事だ
そこに付け込めるかもしれないと思ったが
「懐柔なんてもっての他だ。あいつなんて、世界の半分をくれてやると言ったのに断られて殺されたんだぜ?」
「ああ、よく知っている」
そこでYesと答えれば、そいつはそもそも勇者ではない
「ならば、律儀に玉座で待ち構えるのをやめればどうだ?常に移動していれば勇者にも居場所はわからないはずだ」
「それってただ逃げ続けるってことだろ。そんなのでどうやって世界を支配するんだ」
「ぬうう・・・・」
章生は安易な解決策は難しいと悟った
そして考え込む
「まずお前達に聞く。殺されないためにはどうすれば良いと考えている?」
章生のその質問に魔王達は答える
「そりゃ、勇者が倒せないくらい強くなるとか」
「初見殺しの技をいくつも覚えるとか」
「配下に即死魔法を使える者を作るとかも試したな」
「違ぁう!」
章生が声を張り上げる
「お前達は根本的に考え違いをしている。いくら魔王や魔王軍が強くなっても、勇者は何度でも復活してさらに強くなって現れる」
それを聞いた魔王達は沈黙する
「元々、お前達は殺されるために誕生したんだ。だったら、殺されないためにはストーリーそのものを変えないといけない。強さの問題じゃないんだ」
「ストーリーって?」
そう聞いてきたのは魔王アムムイハだ
「例えば、お前はだな。まず最初に勇者の村を襲ったな。だから勇者が復讐に立ち上がったんだ。その村を襲うのは世界征服を成し遂げるまで後回しにしろ。お前は勇者を先に倒そうとしたのがダメなんだ」
それを聞いたアムムイハはその案を実行した
そこは勇者が誕生する村
本来冒頭に襲われるはずだった村は、襲撃を免れた
しかし、各地で魔王と戦うために集った勇者パーティーのメンバーはやがて勇者を見つけ出す
そして、勇者を仲間に加えた
「やっぱりダメだったじゃないか!また俺は殺されたぞ」
「むうう・・・・」
章生は考え込む
これはもっと根本のところから変えないとダメかもしれない
「よし、もっと根本的な部分を変えよう。お前、勇者や勇者パーティーの生まれ故郷のまわりに弱いモンスターばかりを配置しているな?そこに可能な限り強い奴らを集めるんだ」
それに対し、アムムイハは反論する
「魔王軍の戦力は限られている。モンスターの質を重視するのはわかるが、数が配置できない。勇者たちにその土地から逃げられたら同じなのではないのか」
確かに、そうだ
それでは最初のストーリーと変わらない・・・
そこで章生は発想の転換をする
「そうだ。逆に考えるんだ。勇者や勇者パーティーの生まれ故郷周辺にはモンスターを一切配置するな。奴らは弱いモンスターを倒すことで成長をしていく。弱いモンスターがいなくなれば奴らはレベルアップできない」
それを聞くと、アムムイハはその案を実行した
そこは勇者が誕生する村
本来冒頭に襲われるはずだった村は、襲撃を免れた
そして各地で誕生した勇者パーティーの面々は自分達の土地から出ることが出来なくなった
少し遠出をしたら強力なモンスターが現れる
それと戦うための力や装備を手に入れることができなくなった
しかし、彼らは魔王討伐を諦めなかった
人間同士で修行を行い、レベルアップを行った
「やっぱりダメだったじゃないか!また俺は殺されたぞ」
「むうう・・・・」
章生はまた考えを巡らせる
いっそすべてのモンスターを無くせば、勇者は永遠に魔王を倒せない
しかし、それは世界征服という目的のためには本末転倒になる
別の角度から攻めてみるのも良いかもしれない
「勇者パーティーにサークルクラッシャーを紛れ込ませてみよう」
しかし、2人だけのパーティーでも魔王は倒された
「ならば、勇者を堕落させるんだ。魔王軍から常に勇者に欲望を提供し続けろ」
しかし、勇者を見限ったパーティーに魔王は倒された
「俺は何度死ぬんだあああああああ」
いよいよ、アムムイハは壊れ始めた
「わかった。お前は勇者パーティーの村を全部守れ!守り続けるんだ!より強い存在に守られている状態では奴らは立ち上がらないかもしれない」
「しかし、世界を救おうとして立ち上がる可能性がある」
「ならば、いっそ世界を守れ!そうすれば奴らが立ち上がる理由がない」
「え?それって世界征服では?」
「あっ・・・」
いや、しかし最終形はそういうことなのかもしれない
人間を全て滅ぼすか、人間が不満を持たない形で支配する
後者を取れば、それで解決なのでは
そうなると、最も邪魔な存在は人間の国王だ
「よし、方針は決定した。まずは一般の人間達を守るんだ。インフラを整備し、食料の生産にも努めよ。そして、人間の国王に対して不満が向くように流言を広めろ。国王だって叩けば必ず埃が出るはずだ。それを一般の民衆に流布するんだ」
その案は実行され、最終的に国王は勇者パーティーによって倒された
そして、その後勇者パーティーは魔王アムムイハの支配を受け入れ、その世界の人々は幸福に暮らしていった
「よし、ようやく魔王の一人は救われたな」
しかし、それに対し巨大な機械生命体の魔王グサ=グラースが異論を挟む
「それは、もう“魔王”ではないのではないか?」
その言葉に、多くの魔王達が頷いた
「人間を守るなら、それは王じゃねえか」
「俺たちは魔王として世界征服がしたいんだ」
「勇者に殺されず、なおかつ魔王でありたい」
「注文が多いな・・・・」
章生は額を押さえた
「それならいっそ、ラスボスじゃない魔王になるというので良いんじゃないか?」
「いや、魔王は普通ラスボスだろ」
「ラスボスじゃない魔王って具体的にどういう存在なんだよ」
いろいろと反論が来る
「いや、ラスボスじゃない魔王は存在する。そうなれば生死不明で消えても問題ないはずだ」
「それじゃ、生き残ることは出来ても、魔王軍が負けて世界征服できないってことじゃないか」
「いや、そこで発想を変えるんだ。逃げ延びた魔王は人間の王に成り代わる。それで世界を支配する」
「それじゃ、やっぱり魔王じゃなくて王じゃねえか」
またもや、文句ばかりがくる
もう、どれか諦めてくれ
生き延びることを諦めるか、世界征服を諦めるか、魔王を諦めるか
「何か他に手は無いのか!」
「そうだ、そうだ!」
魔王達が騒ぎ立ててくる
章生は全く別角度からの方法を考えるしかなかった
「ならばいっそ、勇者パーティーに仲間として加わって、隙を見て暗殺すればいいんじゃないか?」
「俺らは、見た目がどう見ても魔王だぞ」
「初対面でラスボスBGMが流れるんだぞ」
「俺なんて登場時に空が割れる演出があるんだが」
「だったらその演出を消せばいいだろ」
「そんな設定変更できるか!」
いちいち文句が多い
いや、よく考えたら勇者は死んでもまた復活するんだ
セーブデータをロードされたら何の意味もない
勇者を倒すという方法はやはり無理だ
いや、待てよ
設定変更が無理であっても、イベントフラグを管理するくらいは出来るはずだ
「お前達、イベントフラグをへし折って来い。もし船が無ければ先に進めないゲームであれば、船の入手を不可能にするんだ。先回りしてイベントそのものを無くしてしまえばいい」
そう、ゲームの進行自体を不可能にしてしまえばいいんだ
仮に船や、空を飛ぶ乗り物みたいなものが登場しないゲームでも、勇者はNPCに助けられることが多い
勇者本人ではなく、そういう重要NPCを先に始末してしまえば・・・・
その方法は多くの魔王によって実行された
そして、大半の魔王は救われたのだった
しかし・・・・
「我が世界では、その方法だけでは救われない。また我は何度も殺された」
そう答えたのはRTAで有名なゲームの魔王ゾングだった
「なぜだ?」
「我が世界の勇者はバグ技を使ってくるのだ」
「バグ技だと・・・・」
「壁抜けだ」
会議場がざわつく
少数ではあるが、何人の魔王からこれに類似する意見が出された
「あいつら普通に山越えてきやがった」
「船イベントを飛ばされたぞ」
「俺なんて仲間加入イベント全部無視された」
それを聞いて、章生は絶句する
そうだ、そういうものがあるゲームはそれなりにある
というか、やろうとすればかなりのゲームで可能なはずだ
とはいえ、いいところまでは来ている
ここまで来ればあとはバグ技に対処するだけで終わる
しかし、どうすれば・・・・・
いや、どう考えてもラスボスまでは辿り着かれてしまう
そして、こいつらはラスボスを辞める気はない
ならば、もっと別のアプローチをするしかない
そして考え込む
・・・すると天啓が降りた
「・・・・俺は、この問題に対するアプローチの仕方を根本的に間違っていたのかもしれない」
そうだ
魔王を倒すのは勇者だが、それを操るのは生きた人間なんだ
止めるべきは勇者ではなく、人間のほうだったんだ
「お前達、ゲームをつまらなくしろ」
「は?」
「プレイヤーはな、いつかクリアできると思うからゲームを続ける。どんなに難しいゲームでも、それに挑み続ける人達がいる。特に俺がそうだ」
章生は配信者としての経験を語り始める
「でもな、本当に駄目なゲームは違う。面倒なんだよ」
魔王たちが息を呑む。
「敵が強いとかじゃない。移動速度が遅い。エフェクトが長い。セーブが面倒。ロードが長い。お使いイベントが多い。ダンジョンが無駄に広い。エンカウント率が異常。そういう苦痛が積み重なると、人はゲームをやめる」
そうだ、徹底的にプレイヤーに苦行となるような要素を作るんだ
「具体的には?」
「まずラスダンを256階層にする」
「うわぁ・・・」
魔王たちがドン引きした
「しかも階段はランダム配置だ」
「邪悪だ・・・」
「セーブポイントは作らない」
「鬼か?」
しかし、これらはバグ技で回避される可能性がある
章生は続ける
「ラスボス前に10時間の会話イベントを入れる。スキップ不可」
「やめろおおおおおおお!」
悲鳴が上がる
「会話を放置できないよう、ところどころに選択肢を入れておく。”はい”か”いいえ”でいい。ボタン固定を防ぐために、どちらかの答えが間違っていたら永遠にループさせる。これなら設定変更も必要ないはずだ」
「彼こそが本当の魔王だ・・・・」
「お前達も技を出すときはなるべく時間をかけるんだ。魔法一発撃つたびに1時間くらいかけておけばいい」
その発想は、今までの魔王たちには無かった
彼らは勇者を倒すことばかり考えていた
だが章生は違う
「プレイヤーの心を折る」ことを考え出した
章生が提案した方法は、あらゆる魔王が実行した
そして、以降、魔王達が殺される事は激減した
「やはりお前を召喚したことは間違いではなかった」
魔王サロマラクはそう言った
そして章生は現実世界へと戻された
しかし、その世界ではRPGのゲーム配信者が一人もいなくなっていた
完




