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1話 婚約破棄されたので推しの騎士団に入りますが、団長の様子が…!?

短期集中連載です。

見落とさないように是非ブクマをお願いします!


 婚約破棄は、あまりにもあっさりしていた。


「アリア、君との婚約は破棄させてもらう」


 そう言ったのは、オスカー王太子殿下だった。

 理由は単純明快だ。


「もっと可憐で、守ってあげたくなる女性を愛してしまった」


 王太子殿下は、悪びれもせずにそう言い放った。


(ああ、なるほど)


 私は静かに頷いた。


 涙は出なかった。怒りもない。

 ただ、頭に過ったのは、たった一つの想い。


(これで、遠慮しなくていい)


 それだけだった。


 私は元々、淑女向きではない。

 剣が好きで、鍛錬が好きで、血の滲む努力が好きな人間だ。


 けれど侯爵令嬢として生まれた以上、騎士になる道は閉ざされていた。

 だから、せめて――


(推しを、遠くから眺めるくらいは許されると思っていた)


 王都最強と名高い「白銀騎士団」の団長、副団長、精鋭たち。

 幼い頃に観覧した模擬戦の勇ましさに、私はあっと言う間に心を奪われた。


 できれば彼らと共に剣を振るいたい。

 しかし貴族の娘として生まれた以上は、立場と責任が伴う。

 私は彼らの戦いぶりを観覧席から見つめるだけで、満足するつもりだった。


 ――王太子殿下が、一方的な婚約破棄を突き付けてくるまでは。


◇ ◇ ◇


「これで、自由になりましたので」


 私は父の執務室で、静かに告げた。


「騎士団に入ります」


「は?」


 父は珍しく、間の抜けた声を出した。


「……お前は、婚約を破棄されたばかりだぞ」


「はい」


「普通は傷心で引きこもるものではないのか?」


「その暇があるなら剣を振ります」


 父はしばらく私を見つめて、やがて深くため息をついた。


「……昔からそういう子だったな」


 観念したように、書類を差し出してくる。


「推薦状だ。だが、入団できる保証はないぞ」


「ありがとうございます」


 私は迷いなく、それを受け取った。


◇ ◇ ◇


 数日後、白銀騎士団の入団試験場に私は立っていた。


 周囲は男ばかり。

 明らかに場違いな令嬢姿の私に、ひそひそと囁く声が聞こえる。


「貴族のお遊びだろ」

「すぐ帰るさ」


(まあ、そう思うわよね)


 私は軽く肩をすくめた。

 何と言われても問題ない。試験で全力を尽くすまでだ。


 程なくして、実戦形式の入団試験が始まる。


「試験開始!」


 合図と同時に、私は剣を抜いた。

 対戦相手の受験者は、私より頭一つ分も背の高い大柄の男だ。


「怪我する前に帰りな、お嬢様!」


 単純な腕力ならば叶わないかもしれない。

 だが、彼の単純な太刀筋の剣をいなすことは、私には難しくなかった。


「はぁ!!」


 大ぶりの攻撃を受け流して懐に入ると、一撃で彼の剣を弾き飛ばす。


「なにっ!?」


 あっと言う間に武器を失った対戦相手は、驚愕の表情を浮かべている。

 結果は誰の目にも明らかだった。


「アリア、合格だ」


 戦闘を見守っていた試験官が、呆れたように言う。


「なんで今まで騎士じゃなかったんだ?」


「なれなかったので」


「は?」


「婚約者が嫌がりまして」


「……ああ」


 何かを察したような顔をする彼に、私も苦笑する。

 その時、低くよく通る声が響いた。


「面白いな」


 振り向くと、そこにいたのは――白銀騎士団アークレイ団長。

 つまり、私の『最推し』だ。


 ずっと尊敬し、憧れ続けていたその人が、目の前にいた。


「!?」


「お前、名前は?」


「あ、アリア・フォン・レイヴンと申します」


「レイヴン侯爵家の?」


「はい」


 団長は、少しだけ目を細めた。


「婚約破棄された令嬢が、騎士団に来たと聞いたが……お前か」


「はい」


「理由は?」


 私は一瞬黙り込み、体裁の良い適当な言い訳を考えた。

 でも、隠す必要はないと思った。


「貴方に、憧れているからです」


 真っ直ぐに団長を見つめて、私は告げた。

 ざわ、と周囲の雰囲気が揺れる。


 けれど私は、目を逸らさなかった。


「強くなりたい。そのために、貴方の下で戦いたい」


 団長は――切れ長の目を少しだけ和らげて、ふっと笑った。


「いい目だ」


 そして、あっさりと言った。


「うちに来い」


◇ ◇ ◇


 それからの毎日は、最高だった。


 朝から晩まで鍛錬。

 実戦訓練。

 任務。


 体はボロボロになるけれど、それ以上に――


(楽しい)


 何より、推しが近い。

 アークレイ団長はことあるごとに、私に声を掛けてくれた。


 指導される。

 模擬戦をする。

 時には隣で戦う。


 鍛錬の休憩中、リオネル副団長が冗談めかして話しかけてきた。


「団長が新人を同行させるなんて、異例のことですよ」


「そうなんですか?」


「ええ。アリアは相当気に入られているようですね」


「……!」


 大変だろうが頑張ってください、と副団長は去っていった。

 団長から気に入られているという言葉に、自然と私の頬が緩む。


 これまで我慢続きの生活だった私にとって、それは夢みたいな日々だった。



 そんなある日のこと、街での任務中に私は声をかけられた。


「……アリア!」


 聞き覚えのある声に、振り向いた。

 そこにいたのは――元婚約者のオスカー王太子殿下だ。


「こんなところで何をしているんだ!?」


「任務中ですが」


 鎧姿の私を見て、彼は絶句した。


「……なぜ、そんな格好を」


「騎士ですので」


「は?」


 王太子殿下は、理解が追いついていない顔をしている。

 少しだけ、可笑しくなった。


「君は……令嬢だろう!?」


「でしたね」


 過去形で答えると、彼は顔を歪めた。


「令嬢はもっと、守られるべき存在で――」


「必要ありません」


 はっきりと言い切る。


「私は、自分で戦えますので」


 王太子殿下は絶句して黙り込む。

 そして彼は、どこか悔しそうに言った。


「……君が、こんな女だとは思わなかった」


(知ろうともしなかったくせに)


 私は思ったことを言葉にはしなかった。

 ただ、淡々と事実を告げる。


「では、任務がありますので」


 私は彼に背を向けて歩き出した。

 もう振り返らない。


「あれが……元婚約者か」

「見る目がなさすぎるだろ」


 仲間の騎士たちが、ひそひそと言葉を交わしていた。

 王太子殿下は彼らの視線に気づくと、ばつが悪そうに立ち去ったようだ。



「未練はないのか?」


 任務後、団長にそう聞かれた。


「ありません」


 私は即答した。


「むしろ、感謝しています」


「ほう?」


「婚約破棄がなければ、ここには来られませんでしたから」


 団長は少しだけ驚いた顔をして――それから、優しく笑った。


「なら、これからは騎士として生きろ」


「はい」


「そして、いずれ――」


 ほんの少しだけ、距離が近づく。


「俺の隣に立て」


 彼の声があまりに甘く響くから、私の心臓が強く跳ねた。

 それでも私は、笑って答えた。


「もう立っています」


 団長は一瞬だけ目を見開く。


「そうか」


 それから、楽しそうに笑った。


「なら”手加減”は要らないな」


「はい、本気で鍛えてください!」


◇ ◇ ◇


 無邪気に目を輝かせるアリアを、他の騎士団員たちが遠巻きに見守りながら噂している。


「アリア、あんなこと言っちゃって大丈夫か?」

「多分、『隣に立つ』の本当の意味は分かっていないだろうな」

「今以上に本気な団長って、どうなるんだ」


「俺なんて、アリアと雑談しただけで筋トレ増やされたんだが」

「怖っ……でも実際、アリアは可愛いからなぁ」

「分かる。あんな子とお付き合い出来たら、訓練にも力が入るってもんだ」


「そうか。――任務中に、余計なことを考える余裕があるようだな」


 背後から届く冷たい声に、騎士団員たちは硬直した。

 おそるおそる彼らが振り返ると、そこにはいつの間にか騎士団長アークレイその人がいた。


「では、今から特別追加訓練といこう」


「そんなぁ!?」


 会話中にアリアの名を出した者たちが団長により捕獲されていく中、他の団員たちはそそくさと立ち去っていく。


「あ、それじゃ、俺たちは帰るんで……」


「置いて行かないでくれええっ」


 哀れな騎士団員たちの絶望の悲鳴が響き渡る。

 突発的な追加訓練は夜遅くまで続き、翌日、彼らは立ち上がることすら困難であったという。



 ――そう、アリアは知らなかったのだ。

 ここからアークレイ団長が見せる、”彼の本気”を。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けましたら、作品ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると励みになります。


次回から、団長の溺愛が加速していきます!

是非ブックマークして、続きもお楽しみいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
冒頭から推し活全開な感じで一気に惹き込まれますね〜。 騎士団長の嫉妬で筋トレや訓練メニューが過酷になっていくのも面白いです。 (*´ω`*)
アリアさんの性格がとても好きです! 騎士団長さんアリアさんにもうすでに落ちていますよね( *´艸`)
追放→ザマァが多く、食傷気味でしたが、これはイイですね。楽しく読めますし、続きが気になります。
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