☆8☆
☆8☆
竜破が、
「さて、それじゃ気を取り直して、屋上で飯でも食うか」
炎華が、
「反対はしないわ」
竜破が、
「素直に食いたいって言えよ。ニャンコのぶんまでコロッケパンを買ってやったんだぞ」
炎華が我輩を見やり、
「そう、ならいいわ。ね、ユキニャン?」
「ニャウ!」
律華があれほど絶賛したコロッケパンである。
我輩も興味津々である。しかし、竜破の立ち直りの早さには感心する。
心臓に毛でも生えているのか?
竜破が屋上へ出る前に止まった。
「どうやら、先客がいるようだぜ」
炎華と我輩は竜破の下から屋上を覗く
プールサイドのはしに二人の少女がいる。
屋上の格子状の柵に寄りかかって、何やら口論をしている。
ここから十メートルほど離れている。
一人は長い黒髪を三つ編みにしたメガネの真面目そうな娘。
もう一人は茶髪にセミロング。優しそうなお姉さんタイプ。
竜破が、
「いい・かげん・で・もう・やめな・さいよ・あ・き・な」
炎華が感心したように、
「読唇術かしら?」
「まあな、茶髪がアキナ。もう一人は、ふ・ゆ・こ」
竜破には色々と尋ねたい事があるが、とりあえず置いておいて、読唇術で分かった事を分かりやすく説明する。
三つ編みが冬子。
茶髪が秋菜。
秋菜が、
「いいじゃない、贋作ぐらい、世の中には贋作なんて、いくらでも出回ってんのよ。今さら何、言ってんの?」
冬子が、
「だからといって、春海はないでしょう、春海は。同じ美術部なのよ? ありえないでしょ」
秋菜が、
「春海の絵は最近すっごい売れんのよね〜。今が旬なのよ。今を逃したら、稼ぐチャンスが無くなるのよ」
冬子が、
「あんたぐらいの技術があれば、オリジナルだって、ズバ抜けた絵が描けるでしょうに」
秋菜が、
「それ無理。あたしオリジナリティーとか想像力とか無いから。人真似をするのは上手いけど、ていうか楽しい。天職だね、贋作はさ、あたしにとって」
冬子が、
「そんな天職、さっさと止めなさい」
秋菜が、
「え〜! 無理だよ! あたしから贋作取ったら何も残らないもん! ただの、うなぎ屋の看板娘になっちゃうよ」
竜破が、
「うなぎか〜。そう言えば、まだ食った事がないな。今度、秋菜の店にでも行ってみるか」
炎華が、
「おかしいわね。生まれてから一度も食べた事がないような口ぶりね」
竜破が慌てて、
「いや、ほら、俺は頭を打った事故があって、以来、記憶障害の後遺症が少し残ってんだよ。たまに変な事を言うかもだけど、気にするな」
炎華が疑わしげに、
「ふ〜ん、まあいいわ。それより、うなぎを食べるなら、いい事を教えてあげる。
うなぎの血は、フグの毒と同じぐらい凄い猛毒なのよ。絶対、うなぎの血は飲んじゃ駄目よ」
竜破が、
「まじか!? でも、みんな普通に食ってるよな?」
炎華が、
「フグと一緒で、ちゃんと処理すれば大丈夫なのよ」
竜破が、
「へ〜、そうなんだ」
と感心し、再び読唇術に戻る。
冬子と秋菜の会話は続いていた。
冬子が、
「とにかく贋作は今後一切禁止だからね! 美術部の部長命令だからね!」
秋菜が、
「ひどい! 横暴だよ! 暴君だよ! ヒットラーだよ!」
冬子が、
「いや、そこまで酷くないでしょ」
秋菜が、
「それもそうだね。あはははは」
冬子が、
「笑って誤魔化される私じゃないわよ」
秋菜が、
「そんな酷い! 笑って許してよ! 贋作も許してよ!」
冬子が、
「許さん物は許さん!」
秋菜が、
「そこを何とかおねげーしますだ! お代官様!」
冬子が、
「ならぬ! ならぬは! そこへ直れい!」
秋菜が、
「冬子ちゃん、意外とノリやすいね」
冬子が、
「うっ! しまった! つい、うっかり」
秋菜が、
「そこが冬子ちゃんのイイとこなんだよ〜」
冬子が、
「おだてても、言っておくけど、何も出ないからね!」
うんぬん。
炎華が、
「いつまで、この漫才は続くのかしら? いい加減ウンザリしてきたわ」
竜破が、
「しゃあない、ここは諦めて、教室に戻るとするか」
我輩は、
「ニャウ!」
と同意した。




