☆7☆
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岡月律華が開口一番、
「うむっ! 美味いっっ!! コロッケパンはただでさえ美味いが、タダだと思うとマスマス美味いなっ! うわっはっはっはっ!」
悪魔のような哄笑を職員室中に響かせながら、律華がまた豪快にコロッケパンにかじりつく。
昼休みに購買に寄った竜破は、女教師、律華との約束を守ってコロッケパンを買い、職員室にいる律華に進呈したのであった。
律華が満足そうに、
「ほひょはになへほははれはそうひにゃ」
竜破が、
「食べるか話すか、どちらかにしてもらえませんか? 律華先生」
律華がパックの野菜ジュースで喉を潤おし、
「それもそうだな。それで、炎華にブン投げられた感想は何かあるか?」
竜破が、
「何かも、何も、何が何だかサッパリ分からない一瞬の早業ですよ」
律華が炎華を見つめ、
「我流だな」
炎華が、
「我流よ。とくに、特別な訓練は受けていないわ」
竜破がピクピクとコメカミを震わせ、
「フッ! それじゃあ単なるマグレって事だな。安心したよ。この俺を倒せる人間なんて、そうそういるはずがないものな! て、あ痛たあああっ!」
炎華に足を踏んづけられる竜破。懲りない男である。
炎華が、
「律華先生がお話し中でしょ! 少し黙ってなさい」
竜破が、
「わかったわかった。だから足をどけてくれよ」
涙声で訴える。
炎華が足をどけると、竜破は首をひねりながらも、警戒して距離を取る。
律華が、
「炎華の技を一言で言うならはをだ。まあ、技と言える物ならばの話だが、たぶん、私の推測だと恐らく、無拍子に近い動きじゃないかと思うな」
今度は炎華が首をひねる。
「無拍子?」
律華が続ける。
「能や歌舞伎に劇的、神秘的、または幻想的な効果を高めるために、わざと拍子を外す場合がある。
語源はそれだが。
それを武術に置き換えると、無拍子はいわゆる無念、夢想の境地。
相手に動きを悟らせない、特殊な動きという事になる。
普通は厳しい修練を積んで、そういった境地に到達するんだが。
炎華は元から、そういった特異な境地というか、レベルに最初から到達しているんだな。つまり、常に無の境地の状態にある。らしい、知らんけど」
竜破と我輩はズッコケる。
結局は何の根拠もない、単なる憶測に過ぎなかった。しかし、炎華は、
「興味深い話ね。それは、でも、常に私が心掛けている事でもあるわ」
竜破が訝しげに、
「どういう事だい? 美少女名探偵☆炎華ちゃん?」
炎華が、
「無念、夢想の境地は探偵の心構えの基本だからよ」
竜破が、
「あっ! なるほどね! いわゆる、先入観をなくすって奴だな!」
炎華がうなずく。
「ご明察ね。探偵は先入観を持って捜査をしてはならない。常に現場にあるものを、あるがままに受け止める。人は誰でも自分が見て信じた事を、信じるものよ。でも、探偵は常に真実を求めなければならない。そのためには、雑念を抑えて、無我に近い境地にしなきゃならないのよ」
竜破が、
「普段からそんな訓練を積まれたんじゃ、行動が読めないわけだ。納得したよ。しかし、まさかそんな、何にもない《無》に負けるとはな」
律華が、
「《無》っていうのはな、何にもないってわけじゃないんだぞ、竜破。
坊さんみたいに、我欲はみんな捨てましたって。
澄ました顔して悟ったような事を言うのとは根本的に違うんだよ。
炎華は恐らく、たくさんの事件や謎に出くわして、それを一つ一つ解いていった。その経験や体験の蓄積が、つまり大量の《有》が、まず、大前提として存在している。その上で、さらに、上を目指そうとした結果、《無》の境地に到達したのさ。
何もかも捨て去る《無》とは、根本的に違うんだよ」
竜破が驚いたように、
「たまには、まじめな話もするんですね、律華先生。驚きました、あっ! 痛っああああっ!」
今度は律華に足を踏んづけられる破目に陥った竜破である。




