第7話☆58☆
第7話
〜傾いた天秤〜
☆58 ☆
新宿美術館の一階ロビーに、
秋の高校生美術コンクール最優秀賞作品として、
春海の絵、
《傾いた天秤》
が飾られていた。
タイトルは《テミスの剣》から変えたようだ。
剣と天秤を持つ、
テミスの女神、
天秤は悪魔の側に傾いている。
その背後に天国と地獄。
とくに、地獄の描写が際立っていた。
絵の前に炎華が立ち、じっくり鑑賞していると、背後から竜破の声が掛かる。
「悪くない絵だよな。
なんつーか、閉塞感漂う美術界の殻をブチ破った。
みたいな感じかね?」
炎華が、
「《傾いた天秤》は春海の最高傑作よ。
誰でも、善と悪の狭間で揺れ動くわ。
それを、見事に表現している。
特に、地獄の描写が容赦ないわね。
ところで、秋菜は、その後どうなったのかしら?」
竜破が、
「残念ながら美術部はやめたそうだ。
ま、力の差を見せつけられたって事かな?
あれだけ酷い目にあいながら、
かえって、こんな傑作を作っちまうんだからな。
凡人の手には負えないさ」
炎華が、
「狂っているのかもしれないわね。
天才っていう人種は。
それとも、芸術家と言ったほうがいいかしら?」
竜破が、
「かもしれね〜な。
俺みたいな凡人には、とてもついていけねいぜ。
ところで炎華、例の写真はどうなったんだい?」
炎華が訝しげに、
「例の写真?」
「針穴写真だよ」
炎華が思い出す。
「ああ、あれね。あるわよ。一枚あげるわ」
炎華がポシェットから写真を取り出して竜破に渡す。
竜破が、
「おっ! よく撮れてんじゃん! 苦労した甲斐があったな!」
写真は、炎華が中央に座り、
左右に我輩と竜破が決めポーズを決めるという。
約20分かかって撮影した力作である。
デジタル写真とは違う、
暖かみのある、
優しい写真になっていた。
竜破が、
「サンキュー炎華。ありがたく、もらっておくぜ。俺には高尚な芸術とやらより、こっちのほうが似合ってるわ」
竜破が美術館を出て行った。
あとに残った炎華は、
しばらく絵を見て回ったあと、
「私たちも、そろそろ帰りましょうか、ユキニャン」
「ウニャッ!」
我輩は首肯した。
帰り際にチラッと春海の絵を見る。
地獄の絵の中に、
秋菜に似た少女を見つけたが、
きっと、我輩の気のせいであろう。
☆完☆




