☆57☆
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病室のベッドで寝ていた春海は、
青ざめた顔に冷や汗をうっすらと浮かべていた。
目は落ちくぼんで、真っ黒なクマにおおわれている。が、
竜破が運んできた絵を見るやいなや、
ベッドから跳ね起きると、
絵をイーゼルに乗せ、
ベッドに道具をばら撒いて、
猛然と絵筆を振るい始める。
暗い眼窩の底で、
瞳だけが爛々と光り輝いている。
取り憑かれたように描き続ける春海に向かって炎華が、
「春海、毒を盛った犯人を、
どうしたら良いかしら?」
しばらく、無言で描き続けていた春海が、
凄絶な笑みを浮かべると、
「犯人には、むしろ、あたしは感謝しているんだ」
繊細に動き続ける絵筆は止めずに、
「この、地獄の描写。
地獄の責苦に責め苛まれる、
もがき苦しむ、
地獄の亡者たちの顔が、
どうにも、上手く描けなかったんだ。
どう描き直しても、
リアリティのない絵空事になっていた。だけど」
春海にうっすらと皮肉げな笑みが浮かび、
「あの、コーヒーを飲んだあとの物凄い、死ぬほどの激痛。
生死をさまよう苦しみ。
あの苦しみのおかげで、
あたしは地獄の苦しみが、
初めて分かったんだ。
おかげで、最高にリアルな地獄絵図を描く事が出来る。
犯人様々だよ」
ますます幽鬼のように目だけを光らせ、
ただ、ひたすらに、絵に向かう春海。
その姿を目の当たりにした秋菜は、
滂沱の涙を流して、
その場に崩れ落ちた。
秋菜の泣き声、
とめどない嗚咽が、
病室に響くなか、
春海の絵筆だけが、
生き生きと精彩に動き続けた。




