☆4☆
☆4☆
というわけで、炎華と我輩は翌朝、新宿駅南口から五分という好立地に建つ、
地上七階、
地下三階、
三角の校庭、
屋上にプールがあるという、狭い敷地を最大限に活かした虹祭学園に行くことになる。
校門付近に近づくと、生徒の人だかりが出来ていた。
新入部員の勧誘と思われる。
炎華はこの学園の生徒でもないのに、勧誘を受ける事になる。
バレーを持った体操服の少女が、
「そこの美少女! バレー部に入って、あなたならエースになれるわ!」
炎華が、
「あいにく、ここの生徒じゃないの。知り合いに誘われて来たのよ」
バレー少女が諦め、入れ替わりにテニスラケットを持った少女が、
「虹祭学園に入る時はうちに来てね! 試しにうちでテニスしない?」
「今は忙しいから遠慮するわ」
炎華が丁寧に断るが、その後も、
ソフトボール、
水泳、
ダンス、
チア、
柔道、
剣道、
空手、
囲碁、
将棋、
軽音部、
軽食部?、
と、勧誘は止まらなかった。
なかでも柔道部の少女は強引だった。
巨体に物を言わせて炎華をつかもうとするが、ヒラリ、ヒラリと炎華がその手をかわす。すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「朝っぱらから何やってんだい? 美少女名探偵の炎華ちゃん?」
一瞬、柔道少女の気がそれる。そのスキを逃さず、炎華が吸い込まれるようにスルリと懐に貼り付くと、足を払い、柔道少女の巨体がフワリと宙に舞い上がって一回転、竜破の真上に落ちる。
「うぐげえええっっっ!?」
竜破が潰れた牛ガエルのような情けない悲鳴をあげる。
柔道少女は何が起きたか、まったく分からず竜破の上に巨体を横たえたまま、キョトンとしていた。
ドングリまなこは爽やかな春の青空、流れる桜吹雪を呆然と見つめているだけだ。
「た、たのむ〜。ど、どいてくれ〜」
どこまでも情けない竜破と、
戦女神ヴァルキュリアを彷彿とさせる炎華である。
柔道少女は身を起こすと、すごすごとその場を逃げ去った。
炎華が、
「竜破。美術部に案内してくれないかしら? 今日はそれが目的で来たのよ」
竜破が制服をはたきながら立ち上がり、
「あ痛たたた、ヒデ〜目にあったぜ。何だって美術部なんかに行くんだい?」
「春海って絵描きを知ってるかしら? ここの生徒で、個展で会った時に美術部に新作の絵があるから来いって言われたのよ」
竜破が片目をすがめ、
「ほお〜。炎華は目利きだな。あいつの絵はキチガイか天才でなきゃ描けない絶品だぜ。なかなか目のつけどころがいいな。が、俺はあいつの絵は知ってるけど、美術部となると、さっぱりわからないな」
炎華が呆れたように、
「美術室が美術部じゃないの?」
「美術はサボってるからな。まあ、仕事の関係上、美術に関しては詳しいが、描くほうはさっぱりだからな。アッハッハ」
大笑する竜破を尻目に、
「困ったわね、ユキニャン。頼みの綱の竜破までこんなザマじゃ、打つ手なしよ」
「それなら、わたしが案内しましょうか? 炎華ちゃん」
大人びた長い黒髪の美少女が声をかける。神秘的な黑瞳である。
竜破が、
「なんだ巡か」
と美少女を呼ぶ。
巡が眉をひそめ、
「なんだ巡か、とは、ご挨拶ね。わたし、こう見えても、れっきとした美術部員なのよね。案内役としては、これ以上、適した人物も他にないと思うのだけど、他に誰かあてでもあるのかしら?」
竜破が態度を改め、
「いや、そうとは知らなかった。てか、いつの間に美術部に入ったんだ。確か、お前の趣味はタロット占いじゃなかったっけ? 何で占い部じゃないんだ?」
巡が片眉を釣り上げ、
「そんな奇天烈な部活動が許されるわけないでしょ。そもそも、わたしは中学時代から美術部に入ってるのよ。根っからのお絵描き大好きっ子人間なのよ、わかった?」
炎華が、
「二人が仲の良いお友達だという事は良く分かったわ。ともかく、美術部を案内してくれると助かるのだけど」
竜破と巡がジト目で睨みあいながら、どこか不満そうに竜破が、
「とにかく美術部だ。俺も一度は、絵の制作現場という奴を覗いておかないとな」
巡が、
「邪魔しないように、くれぐれも大人しくしていてよ。部室で柔道の背負い投げはゴメンよ」
竜破がハッと思い出したように、
「そういえば炎華、柔道少女をぶん投げたあの技はいったい何なんだい? 古流柔術に近い感じだが、あんな見事な背負い投げは見た事がないな。この俺が押し潰されちまったからな」
炎華が、
「無駄口はいいから、さっさと行きましょう、巡。竜破はもういいわ。さよなら」
竜破が不服そうに、
「おいおい、そりゃないだろ。乗りかかった船だ。俺もつきあうぞ」
そう言うと勝手に炎華のあとから付いてきた。
まったくもって、わがままな、ただの子供な竜破である。




