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七美の話だけでは、すこぶる要領を得ないので、我輩が分かりやすくリライトする事にする。
七美によると、彼女と春海が小学二年生の時、春海が七美の家に遊びに行き、当然一緒に遊んだのだが、七美はとある遊び(イタズラ)を思いついた。
それは悪気のない遊び(イタズラ)であったが、その事件が春海の一生を左右するような事件になるとは、七美は知るよしもなかった。
春海の父親は大病院の院長で、
春海の家は大豪邸だった。
小さな城のような瀟洒な洋館だった。
その周囲をめぐる塀は、高さニメートル、全長三百メートルと凄まじく長かった。
塀は真っ白に、まるで白無垢のキャンバスのように真っ白であった。
春海の母は、院長である父とは違い、美大出身のお嬢様だった。
塀のそばに、離れの別棟を作り、その中を自身のアトリエにした。
無論、春海も七美も何度もそのアトリエに立ち入っている。
七美にとっては、自分の家も同然、勝手知ったるアトリエ(遊び場)である。
その日、春海の両親はともに用事で出掛けていた。
屋敷の使用人も出払っていた。
屋敷には少々ボケの進んだ祖父母がいるだけだった。
季節は秋、真夏の地獄のように猛烈な酷暑がようやく過ぎ去り、涼しい秋風が吹いていた。
空は抜けるような青空である。
うだるような暑さの中、汗をダラダラかきながら、芸術に浸るというのは、やはり無理である。やはり、
芸術は秋にこそ相応しい。
などと、子供心にそう思ったのかどうかはともかく。
その時、七美の心には突然、芸術の神が舞い降り、七美は描かずにはいられない、創造の衝動に取り憑かれた。
七美はアトリエから道具を取り出すと、猛烈な、怒涛の勢いで描き始めた。
今までの話の流れから察してもらえる通り、七美のキャンバスは当然、三百メートルの塀であった。
七美の筆は走りに走り、半日で三百メートルにピカソかゴッホか山下清かモネかマネかダビンチか?
という、とんでもない怪作を描きあげてしまった。
度肝を抜かれたのは春海である。
母親譲りの美術の才能を受け継ぎ、
幼少の頃から美術教室に通い、
天才少女と褒めそやされて育ってきたのに、突然、芸術に目覚めた七美に目玉が飛び出るのではないか?
という、最高傑作を見せつけられたのである。
その敗北感と挫折感は一生消えずに残り女子高生となった今も苦いトラウマとして春海を責め苛んでいた。
ちなみに、七美の描いた最高傑作は、
春海の父により巨大、長大な落書きでしかない、と認識され、翌日には全部、剥ぎ落とされた上、
二度と落書きが出来ないよう、塀は真っ黒に塗りつぶされた。
七美は翌日、真っ黒に塗りつぶされた塀を見て、以後、再び絵筆を握るまでに五年以上の月日を必要とするほどのトラウマを抱える事になったのである。
これが、春海と七美の間に起きた消し難い黒歴史であった。




