☆23☆
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春海が炎華を振り返り、
「おっ、やっと来たのか。まあ、たいしたもんはないけど、今描いてる絵があるから、それでも見ていてくれ」
春海がいかにも面倒臭そうに、ぞんざいな物言いをする。
炎華と竜破、それに我輩が絵を覗き込む。
窓際に置かれた絵は自然光のおかげでナチュラルな明るさで見れる。
春海が、
「おっと、そこは避けてくれ。制作過程を撮影してんだ。
今、流行ってんだよ。
バンクシーとかが有名だよな。
まあ、自分の絵でも、あとで制作過程を見てみると、意外と勉強にもなるし、フォロワーが出切れば金にも繋がる。一石二鳥なんだよ」
そう言って、うっすらと笑う春海。
竜破が、
「バンクシーね。春海の絵は、どちらかと言うと、正統派っぽい狂った絵だな」
炎華が、
「女神が持つ、天秤と剣かしら? 天秤に天使と悪魔が乗って、均衡を保っているわね」
春海が、
「次の展覧会のお題が【正義】だから、
《テミスの剣》にしたんだ。
まだ、仮のタイトルだけどな。
正義に歯向かう悪魔をいっぱい描いたら、
律華先生に色気かないな〜とか言われて、それで女神テミスを描いた。
背景は天国と地獄。
地獄を描くのが結構、難しいな」
炎華が、
「律華もいい加減な事を言うわね。それにしても、春海も素直に描き直すなんて、大変ね」
春海が、
「いや、悪魔の絵は没にして、新しく描き直した。没は倉庫に入ってる」
春海が指差す扉には、
職員控室と書かれている。
春海が、
「没じゃない絵も部活が終わったら、そこにしまうけどな」
扉に鍵は掛かっていない。
炎華と竜破が控室に入る。
三畳ほどの広さで、
入口付近にシンク。
小型の電気コンロ。
ヤカンやポット。
小さな棚にインスタントコーヒー、ミルク、砂糖。
同型のカップが十数個。
スプーンも同じぐらい。
恐らく、生徒も利用しているのだろう。
美術控室というより、休憩所といった感じだ。
控室の奥には、春海の没と思われる絵が見上げるほど山積みされている。
それと、ほこりの積もったOBの絵らしき物も山積みされていた。
現役の美術部員の絵は手前に置いてある物だろう。
竜破が春海の没作品を手に取って感嘆の声を漏らす。
「こりゃ没っていうレベルじゃないな。完成度が高すぎるぜ」
炎華が、
「本人が失敗と決めたのだから、仕方ないでしょ。あら、これは何かしら?」
手前の現役の絵がならぶ棚に、
春海の絵にそっくりな絵がいくつかある。竜破がその絵を覗き込み、
「はっは〜ん。こりゃ贋作だな。よく真似てるけど、春海とは微妙にタッチが違う」
炎華が、
「昼休みに屋上にいた二人が贋作がどうとか言ってたわね。確か、秋菜のほうだったかしら? 冬子は贋作をやめろ、と言っていたわね?」
竜破が、
「まあ、読唇術だから、あんま自信はないけど。恐らくこれが、秋菜の贋作だろう」
そう言って、もう一度贋作を見てから、
「しかし、本当にこりゃ良く出来てるぜ。売りに出しても良いレベルだ」
炎華は、
「贋作は贋作よ。よく見ると、やっぱり違うわ。そろそろ出ましょう」
「ウニャ」
我輩は同意した。
炎華が控室を出ると、竜破もそのあとに続く。
部室には諸星巡と部員が一人、来ていた。




