☆10☆
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コンロとシンクの並ぶ調理実習室が軽食部の活動場所である。
太田部長は話の分かる、ふっくらしたほっぺたの持ち主で、
「いいんじゃないかしら。いつも仲間とばっかりで食べているから。たまには、お客さんがいたほうがモチベーションがあがると思うわ。今日は丁度、年に一度のフォーチュンクッキーの日だしね」
ソバカスの粕谷副部長が難色を示す。
「いいんですか太田部長? フォーチュンクッキーは、我が軽食部の重要な伝統行事。それを部外者の、しかも、こんな可愛い女の子に参加させて。こんな可愛い女の子には、フォーチュンクッキーをする意味がないと思いますが」
炎華が、
「それはいったい、どんなクッキーなのかしら?」
竜破がシャシャリ出る。
「美少女名探偵☆炎華ちゃんでも、フォーチュンクッキーについての知識はないようだな。
フォーチュンクッキーっていうのは、クッキーの中に占いの紙を入れて、食うときにそれを出して読むんだよ。
ちょっとしたオマケ入りのクッキーの事だな。
恐らく、軽食部がやっているのは、さだめし恋占いってとこじゃないか?」
軽食部の女子全員がウグッとうめき声をあげ、竜破の推測が図星である事を証明した。
粕谷副部長が憤慨したように、
「悪かったわね、高校生にもなって恋占いとかして、どうせ私たちはモテないお菓子好きの、さえない女の子集団よ」
太田部長が、
「まあまあ、お菓子に罪はないわ。楽しく作って、美味しく食べましょう。それに楽しいオマケが付いているのなら、言う事ないわ」
粕谷副部長が不服そうに、
「まあ、太田部長の言う通りだけど」
ショートボブの酒巻部員が、
「あ、あの〜。そろそろ作りませんか?
三時のオヤツに間に合わないですよ〜。
占いに当たると、その占いが本当になるっていう伝説を、みんな楽しみに待っているんですから〜」
炎華が、
「面白い伝説ね。大きな木の下で告白したら、永遠に結ばれるっていう、あれみたいね」
粕谷副部長が、
「馬鹿にするのもいいですけどね。過去に実際、何人もの部員が両思いになって、なかには結婚した人だっているのよ。
これってウソじゃないんだからね。
本当の話なのよ。
まあ、あなたみたいな美少女には関係ない話でしょうけど」
炎華が、
「人間、いつまでも若く美しいってわけじゃないわ。いつかは年を取って醜くなる。付き合うとか、結婚とかは、見てくれじゃなく心の問題だと思うわ」
粕谷副部長の顔が気色ばむ。
竜破が二人をなだめるように、
「やめとけよ炎華。こいつは理屈じゃないんだ。嫉妬って奴に正論は通じない。まして、炎華みたいな美少女が何を言っても、残念ながら説得力がない」
炎華が竜破をにらみ、
「あなたはどちらの味方なのかしら? 竜破? 私は過去に美女がニッコリ微笑みながら、殺人を犯すところを何度も見てきたのよ。だから、あえて言うわ。人は見た目じゃないって」
調理室に重たい空気が流れる。
そこへ急に律華が入ってくる。
「何だ何だ? まだ作ってないのか!
早くフォーチュンクッキーを食べたいんだがな。
あれに当たると結婚出来るんだろう?
私は玉の輿になりたいんだよ。
いいかげん安月給でコキ使われる教員生活には嫌気がさしてるんだ? ん?
何だみんな? どうして、そんなジト目で私を見るんだ?
今日は楽しい軽食部の、一年に一度の伝統行事、当たったら結婚出来るという、フォーチュンクッキーの日じゃないのか?」
今回ばかりは律華の無頓着さに感謝せねばなるまい。
それまでの重たい空気は、いくらか柔らぎ、軽食部員たちは、進んでクッキー作りを始めた。
竜破が、
「律華先生、たまにはイイ事しますね!」
律華が、
「は? いったい何の事だ」
炎華が、
「とにかく、ベストタイミングだったのよ」
律華が、
「まあ、何にしろ、結果良ければ、すばて良し、だな。あっはっは」




