魔女の名、賢者の名
生命の脈々とした命道を感じる巨大樹木に寄り添う町。そしてその巨大樹木に支えられて建っている城のような建造物
そこは、エルフの国アールヴ王国
国王は武王と恐れられるゲバラ・ヴァンヤール・リヨース・アールヴ。
そしてここは、アールヴ王国の首都マギナ。
ここでは、膨大な数の魔法戦士魔法戦士と魔術師魔術師が日夜、研鑽を積んでいる。
そして、そんな強者どもが跋扈している首都の端の端の端には、国中の誰もが知るダークエルフ、銀髪・褐色肌・サファイヤのごとき碧く碧澄んだ目を持つダークエルフが住んでいる。
彼女の名はダリア・テレリ・デック・ヴァ―ル。
彼女が起こす事柄にこの国の未来が二転三転もしてしまう。そんなお話。
★
僕の名前はユーリ・エルネイア。高貴な生まれでもなんでもない僕は、ミドルネームが一つもつかない。
今は亡くなった両親から継いだ本屋、『大樹の蔵』を営んでいる。
今日も今日とて本屋を営む。
「よう、ユーリ」
「おはようございます!」
「今日も閑古鳥が鳴いてんなぁ」
「あはは・・・」
「お前はかわいそうだな。こんな何のとりえもない本屋を継がされた挙句、面倒な奴に絡まれるんだもんなぁ」
「あはは・・・何か買っていきますか?」
「おお、そうだ。魔術書を一つ」
「いつものですね。そこに置いてあります」
「おぉ。すまねぇな。これ勘定だ。また頼むぜ!」
「お買い上げありがとうございます」
そう、この本屋は常に赤字でもう少しでたたむ予定なのだ。
そして、この本屋にたむろする人物、もとい半居候がいる。
「ユーリ。おなか減った~」
「そこに木の実があるから、それ食べて」
「ん~」
それが彼女、ダリア・テレリ・デック・ヴァ―ル。
複雑な事情で、こんな首都の端の本屋の居候になっている。
下着姿で本屋を闊歩する彼女は本売り場の裏の部屋に行き、寝ぼけまなこで木の実を口が膨れるほどに放り込み、むしゃむしゃと咀嚼する。
「今回の収穫はどう?」
「ダメ、酸味が強い、ついでに苦い」
「また?」
「そう、また」
「改良が必要だね」
「そうだね」
彼女が食べた木の実は最近僕が僻地で育てた大樹になった物なのだがまた失敗した。
「水やりが甘い、地質がゴミ、栄養分が足りてないからこうなるんだよ」
「ぐっ!!」
余りにも厳しすぎる彼女の発言に胃がめちゃくちゃ痛む。
彼女の舌は一級の料理人よりも鋭いので、反省点を列挙するときには助かるのだが、言葉にはとげがありすぎるので、毎回毎回胃が痛むことになるのだ。
「水やりは魔法陣でってあれほど言ったのに・・・地質に関してはあそこに売ってる使い捨て魔法紙を使っててあれほど言ったじゃん」
「買うお金がないよ」
「なら習得すればいいでしょ?」
「僕の適正は火と風なんだけど!?」
「やればできる!!」
「まさかの根性論!?」
僕は彼女と違って凡人なので、魔法の才能がないのだ。
眉間を寄せた彼女は本の売り場を闊歩する。
「最近仕入れた新しい魔術書は?」
「さっき売っちゃった」
「私のために残すっていうルールでしょ!!」
「そんなルールは存在しないよぉ!?」
「私の命令は絶対!!」
「ここの店主、僕なんですけど!?」
「ここの本はすべて私の物。だから私がすべて!!」
「暴論!!」
下着姿で僕の店を闊歩する傲岸不遜・傍若無人・暴君な彼女との過ごす日々
僕はこんな感じの日常は続くと思っていた。
あれさえなければ・・・