2-1 男性の辛さは大抵、競争の辛さである
そしてセドナは帰途についた後、早速パソコンを開いた。
「さあ、頑張るぞ! すべての人類を幸せにすれば、きっと彼らは永遠に繁栄し続けるはずだ!」
そういいながらセドナは張り切っていた。
やはり、人類に対して様々な介入を行うこの『ゲーム』自体は興味があったのだろう。
また、セドナ自身が愛している人類を『永遠に繁栄させる』というプレイ自体、誰も表立ってプレイをしたことがないということも、彼のモチベーションを上げた理由だろう。
まずセドナは、自分が担当する惑星のSNSをじっと眺め始めた。
「なになに……なるほどなるほど……」
そういいながら、彼らが残した書き込みを舐めるように眺めるセドナ。
そしてしばらくした後、こくりとうなづいた。
「よし、分かった。……どうやらこの世界は男性のほうが数が多いみたいだし、男性の『不幸の源』を取り去ることから始めないとな。……まず、男性の不幸の原因は……『競争社会』みたいだな……」
そういいながら、セドナは神妙な顔をしてうなづいた。
いわゆる『弱肉強食』という価値観は、神であるセドナにはあまりなじみがなかったようだが、少なくとも『勝者でないものが淘汰される』のが、雄の特徴であり宿命であることは理解できたようだった。
「後は……。どうやら孤独や青春時代に恋愛や友人との思い出が作れなかったことなんかも、不幸の原因になるのかな……? なるほど……」
セドナは、パソコンで様々なサイトを見ながら、そのようにつぶやく。
「後は、パートナーの不在、か……。男性の場合には異性の獲得競争に勝利できなかった時、不幸になる人が多いのかな……逆に言えば……自分を理解してくれるパートナーがいれば不幸になることはないのかな……」
無論、全ての人がそうであるかといえば嘘になるが、男性の場合には『彼女がいる』ということが非常に人生において大きなウェイトを占めることをセドナは理解した。
「後は長時間労働や、上がらない賃金……悩みは目白押しだから……そうだな……。つまり、全ての男性が『競争の苦痛』と『異性獲得競争の辛さ』から解放されれば、幸せになるはずだ!」
そしてセドナはそう結論付けるとともに、はああ……と気合いをこめ始めた。
すると彼の両手の先から光がほとばしり始める。
「やあ!」
更に彼がその手を振りかざすと、凄まじい轟音が室内に響いた。
そして、
「よし、出来た!」
光が晴れると、そこには二人の美少女が現れた。
「はじめまして、神様!」
一人はセミロングの髪型をした、やや小柄で元気な美少女。
「私たちはなぜ生まれたのですか?」
そしてもう一人はロングヘアーで長身の、おしとやかな印象を与える美女だった。
「やあ。二人とも。君たち『天使』には、これから僕がいう星に言ってもらいたいんだ」
そうセドナは笑顔で答えた。
この『世界崩壊RTA』は基本的に直接的な自然現象によって介入を行うことは、禁止されている。
これは、以前ゲーム開始と同時に洪水によって世界を滅ぼしたプレイヤーが居たのだが、視聴者たちが『それは反則だろ』『それがOKなら、ゲームじゃないだろ!』と、猛クレームが来たためだ。
そのため、現在ではこのようにセドナ達『神』が作った人造人間『天使』を惑星に送り込むことによって、人類を滅亡させる方法が用いられる(神が作ったのに『人造』という表現をするのは違和感があるが、分かりやすいのでそういう表現にします)。
もっとも今回、彼女たち『天使』の役割は人類を滅ぼすことではなく『繁栄』させることだ。
そのため、セドナは彼女たち『天使』に対して行った調整(価値観や技能などは、任意の能力を彼女らに与えることが出来る)も、特殊なものとなっている。
「惑星に、ですか? どういう理由ででしょう?」
「ああ。君たちには『人類の繁栄』を手伝ってもらいたいんだ。そのために、その星に住む男性のパートナーとして、これから過ごして欲しいんだ」
「パートナー……ですか?」
そう長髪の『天使』は少し不思議そうに尋ねると、隣のセミロングの『天使』も首を傾げる。
「へえ……。で、その男性ってどういう人なのさ?」
「ああ。君たちの相手は彼だ。年収は……の、派遣社員だよ」
そういってセドナは一枚の写真を取り出した。
その男は身なりに気を使っていないのか、小太りで髪はぼさぼさであり、お世辞にも『イケメン』とは言えなかった。
また、年収も詳しくはここでは書いていないが、お世辞にも高収入とは言えない。
だが、
「い……いいんですか、こんな素敵な方に!」
「ほんと! マジ、最高なんですけど!」
二人の『天使』は、まるでその写真の男に一目ぼれをしたかのような反応を見せながら色めき立つ。
これは、セドナが彼女たちに対して、相手の男性のことを100%好みのパートナーだと感じるような精神調整を行ったからである。
このような『天使が誰を好きになるのか』ということも自在に調整できるのが、セドナ達の特徴だ。
その『調整』がうまくいっていることを確信したセドナは、ガッツポーズをしながら答える。
「なら良かったよ! それじゃ、早速裏手から出れば惑星に着くから、頑張ってね!」
「はい! ありがとうございます!」
「やったあ! 早く、会いたいな! この人の仕事、早く代わってあげたいもの!」
そういいながら、二人の『天使』はまるで初恋の相手とのデートに行くような足取りでセドナの部屋を後にした。
そしてバタン、という音が聞こえた後セドナは、
「よし、第一作は成功だ! このまま、全ての独身男性に『天使』を二人ずつあてがうぞ!」
そういいながら、また魔力を腕にこめ始めた。