プロローグ後編 争いの勝利が『相手の口をふさぐこと』であってたまるか
「はあ!」
「やあ!」
『ガン!』『ゴン!』と石と石がぶつかり合う音が廃墟となった工場の中に響く。
そしてしばらくののち。
「イヴ……きみの……勝ちだ……」
その、ある種の敬意を含めたその一言ともに、アダムは床に倒れこんだ。
その床にはおびただしい血が飛び散っており、この『最終戦争』の恐ろしさが目に見えて分かる。
身体能力ではアダムのほうが上だが、彼の敗因は得物にナイフを選んだことだろう。
剣となぎなたの戦いを見れば分かるように、武器のリーチの差は、男女の持つ腕力差を凌駕しうる力がある。
「や……やった……のね……」
……そしてアダムががこと切れたのを確認し、イヴは歓喜の表情を浮かべてつぶやいた。
「やった……! これでこの世界の『男』は絶滅した……!」
……だが、彼女の腹には彼が最後に放ったのであろうナイフが深々と突き刺さっている。
重要な臓器は避けられていたが、すでにこの世界には医術はおろか、金属製の針すら存在しない。
……つまり、彼女もまた絶命する運命であり、イヴ自身もそのことは分かっているのだろう。
すでに役割を失った廃墟の天井を見上げながら、アハハハハ! と狂ったように笑い出した。
廃墟の隙間からは空が見えていた。
だが、その空はもはや数年は晴れることのない死の雲でおおわれていた。
「アハハハハ! やった……やったよ、みんな……!」
『みんな』とは、ここに来るまでに命を落とした女性たちのことだろう。
「この戦争……私たち『女』の、勝ちだ!」
その『勝利宣言』に返答するものは、もはやこの星にはいない。
……というより、この星にはもはやイヴ以外の生命体は残っていない。
最後にイヴは、
「本当に……戦争に勝てて良かった……けど……思ったより……つまらない人生……だったな……。今度生まれ変わったら……ううん、それはもう……ないか……」
そうつぶやくとともにガクリと頭を下げ、その身から体温と意識が消えていくのを感じながら死を迎え入れた。
……そして。
「ふう……」
パソコンのような装置を見ながら、青年はため息をついていた。
その部屋にいる者たちは、普通の人間とは異なる、よく言えば神々しい、悪く言えば禍々しいオーラを身にまとっていた。
そして彼の持つ装置の画面には、イヴの死体とともに、
「おめでとう! この星の人類は絶滅しました!」
というテロップが表示されていた。
「やっと『絶滅』させることが出来たか……」
彼が見ているパソコンからは、けたたましく嫌味なほど明るい曲調のBGMが流れ始めはじめた。
さらに『スタッフロール』の代わりなのだろう、その世界で『功績』……即ち、戦争を始める際に引き金となった『偉人』たちの名前がゆっくりと流れ始めている。
そしてその青年はつぶやいた。
「はあ、滅亡まで500年もかかっちまったか……しぶとかったな……」
そう、この星は彼ら『神々』の介入によって滅亡に導かれたのだ。