5-3 セドナは驚いてますが、当然の結果です
ひとしきり話をした後、ミノリは憑き物が落ちたような表情になった。
「話聞いてくれてありがと……ねえ?」
「なんだい?」
そういうと、ミノリはもじもじとしながら少年に尋ねる。
「そ、その……ギュってして?」
その発言に、少年はにっこりと笑いながらそっと抱きしめる。
「勿論! ミノリちゃん、大好きだよ……」
ミノリのことが好き。これは少年の本心だ。
……というより『いい子の薬』を飲んだものは、どんな相手であろうとも嫌うことなどない。そのため、身もふたもない言い方をすれば「早い者勝ち」で彼とは付き合える。
それを当然知らないミノリは、嬉しさのあまり。少し泣きそうな表情をしてつぶやく。
「嬉しい……。あ、あのさ! 大人になったら……私と結婚して?」
これもまた、少年は自分から反故にすることは絶対にない。
『いい子』である少年は、このような『幼少期の約束』を忘れることは決してないからだ。
そして少年は答える。
「うん、勿論いいよ! じんるいよ、えいごうたれ……」
「…………」
彼は自身を養育してくれている天使の口癖を受け、似たような口調になっている。
だが、ミノリは幸せそうに彼のぬくもりを味わっていた。
……その様子を見て、女医は妊婦に尋ねる。
「どう、二人とも幸せそうですよね? ミノリちゃんが娘になってくれたら、私も嬉しいから、将来楽しみなんですよ」
そして妊婦は、ある意味少女漫画のような少年とミノリのやり取りを見ながら、ニコニコと笑う。
「うん、私もああいう幼馴染が欲しかったなあ……」
親が自分の子どもに夢を託すというのは別に珍しい話ではない。
分かりやすい『〇〇になりたい』のような夢は勿論だが、こういう恋愛や人間関係も同様なのだろう。
この妊婦は幼少期に、友人に先を越され失恋した経験があるのをいまだに引きずっている。
だが、そのことを知らない女医は、彼女が同意したことに嬉しそうな表情を見せる。
「分かりましたか? ミノリちゃんと息子の関係を見れば分かるでしょう? 親が『優しい子』を欲しがるのは、それが本人の幸せになるからです。けっしてこれはエゴじゃありません。だから、あなたも薬を飲んでみるのはいかがでしょうか?」
そう女医は答えた。
すると妊婦は洗脳……もとい、説得されたようにうなづいた。
「そうか、その方が子どものためだもんね……」
そして、
「それじゃ、いただくわ?」
そういって、彼女から薬を貰い、それを飲みこんだ。
「うんうん、これで完璧だ!」
その様子を見ながらセドナは満足したように伸びをした。
これで一通り全人類に対して介入を終えたことで、達成感とともにふう、とため息を就くとベッドに横になる。
「今日はこの辺でいいな。明日まで8時間放置しておくか……」
因みに『神々の世界』では、一時間が10年に相当する。
そのため、一晩で80年が経過することになる。
そういいながらセドナは、気持ちよく眠りについた。
……だが、次の日。
早朝からいきなり電話が鳴りだし、セドナは寝ぼけ眼で電話に出た。
「はい、なに?」
「おい、セドナ! 今すぐ事務所に来い!」
声の主は、昨日自分と話をしていた同僚だった。
「あ、うん、分かったよ……」
そういいながら、セドナは支度をすると事務所に向かった。
「おはよう、いったい何? そんなに慌てた声で?」
そして事務所に入るなり、同僚たちが一斉に拍手を行ってきた。
「おめでとう!」
「凄いじゃん!」
その様子に、訳が分からないといった様子で周りを見回す。
そこには昨日口論した男女の同僚が笑って立っていた。
「おい、セドナ! すげーな! お前、最短記録を更新したんだよ!}
「最短? なんの?」
「とぼけるなよ! 昨日話した『世界崩壊RTA』の件だよ!」
「ええ、こんなに早く人類を滅ぼすなんて! 凄いじゃない、セドナ? 本当はやる気だったのね?」
「え……?」
自分はもともと、人類を永遠に繫栄させるためのプレイをしていたはずだ。
「いや、そんな……だって、まだ80年だよ? 普通は人類を滅ぼすには500年近くかかるはずだよね?」
「ああ。特別凄いイベントが起きたわけでもなかったのにな。驚いたよ……」
「いったい何があったの?」
「ああ、その理由を今から調べようと思っていたところだよ」
そういうと、男はブン……と、PCを呼び出した。