5-1 多様性を叫ぶ連中なんて大嫌いだけど
件の老人が天使ラファと仲睦まじく暮らしているのを見ながら、セドナはニコニコと笑みを浮かべた。
「よし、これで高齢者も健康になったし、孤独からも解放された! カスハラも激減したし、いい調子だ!」
そしてパソコンを再度取り出し、
「最後は、子育て世代だ! 誰も切り捨てたりしないぞ!」
そう息巻いた。
だが、セドナは知らなかった。
子育てに関する知識をネットで集めると、それはそれは『素晴らしい内容』ばかりが集まるということを。
……果たしてそれを鵜呑みにしたセドナは、ある結論に達した。
「なるほど……。なるほど。ネットの話を見ると、家事も育児も『死ぬほど辛くて、ものすごく大変で、重労働なわりに誰も褒めてくれない、誰もが嫌がるタダ働き』なんだね。よし、『そんな仕事』は天使に任せるとしよう」
だが、セドナもそれだけでは人類の繁栄に繋がらないことは分かっていた。
「うーん……。育児を『天使』に任せたとして……あとは何が足りないのかな……そもそも、なんで人類はいつも滅びたり、生き残ったりするんだろうな……」
そう思いながらセドナは以前別の星で『世界崩壊RTA』をやっていた同僚のことを思い出した。
「そうだ、あの時は……疫病が流行って人類が大幅に減少したんだけど、何人かの人間は無事だったんだ。彼らが治療薬を必死で探し出して、そのピンチを切り抜けたんだっけな」
その時に協力し合っていた人間たちは、くしくも※今日のお昼に滅ぼされた星にいた『アダムとイヴ』にそっくりだったことを思い出し、セドナは少し寂しい表情を浮かべた。
(因みに『神々の世界』と人類の世界は時間の進みが違う)
そしてセドナは、
「つまり、多様性こそが人類の強みってことだな」
そう結論付けた。
「逆に、人類を滅ぼす『弱み』が何かっていうと……戦争を起こしたり、犯罪を起こしたりする『悪い奴』ってことだよね。……つまり、これと子育ての大変さを換算すれば……」
そう少し考えた後、ポンと手を叩いた。
「見えた! 人類永遠の発展につながる、正解が!」
そういいながら、以前のように大量の薬瓶を取り出した。
「そうだよ! ……だから、多様性を受け入れる、そんな余裕がある人……具体的には『強くて優しい人』しか、人類から生まれてこなくなるようにすればいい! そうすれば、親になった人たちも育児が楽になるし、一石二鳥だよね!」
そういいながら薬を調合しながらセドナは笑みを浮かべる。
「強くて優しい人しかいない世界なら、戦争なんて『愚かなこと』は『絶対に起きない』はずだ! 戦争さえ起きなければ人類は永遠に発展するよね、絶対! ……さあ、生まれた子がそうなる『いい子の薬』を急いで作ろう!」
曇り一つない瞳で薬を調合しながら、セドナは自身の行動を善行と信じきっていた。